前回は、DX時代の命令についてこれまで述べてきた7回のまとめを述べました。命令の4つのスタイルにおいて初めから三つは「~令」でしたが、四つ目はこれとは異なり「情報」となっていました。命令の英訳を探すと四つありましたが、これまで述べてきた日本式のように微妙な差異は見つけられませんでした。これは筆者の英語の理解不足に起因するのかもしれませんが、似たような単語がやはり四つありました。英語の場合、命令を上司の意図と部下の任務という二つの要件ですっきり定義できるかどうかはわかりませんでした。
わが国独自の5S活動において定着している、しつけ(規律)という言葉を取り上げました。5S活動では直接的な命令に代わる位置づけとして、これがありました。規律は命令が達成された状態を重視するものでした。これらの延長上にDXツールが果たす命令というコミュニケーションへの効用を述べました。命令における上司の意図と部下の任務という二大要件において、命令の背景にある情報について上司と部下で理解の共有が重要であることを述べました。
今回は、DX時代の命令についてのまとめとして(その2)を述べることにします。
【1】全ての仕事(業務)は何らかの成果物を生み出す
業務、仕事、作業とは何か、その定義を述べました(第145回)。業務→仕事→作業、この順序でより下位の階層になります。それぞれの定義を確認のため掲載しておきます。
業務・・日常的あるいは定常的に継続しておこなう仕事
仕事・・成果物を得るためにおこなう一連の作業の集まり
作業・・仕事を構成する単位、仕事の下位にある概念
ここで成果物の定義として仕事の完了時にでき上がっているモノや状態としていますが、作業の成果物あるいは業務の成果物という言い方もできます。つまり、成果物の定義は広くも狭くもいずれでもできることになります。
【2】全ての業務は命令で動くようになっている
ルーティンが確立している業務では、命令というコミュニケーションは見えにくいことが多いようです。あたかも命令は存在しないように見えるかもしれません。それは見えないだけであって、命令そのものがルーティン化していてきっかけさえあれば業務が動き出すような仕組みができているからです。
このような職場では、ルーティンに無い突発的な業務が起こったときは、必ず上司から何らかの命令があるはずです。つまり、上司の意図が明示されることになります。そうでなければ、ルーティンに無い業務は部下であれ、誰であれ責任をもって実行することができないからです。ルーティン業務で命令が見えないのは、基本的に業務が破たんせずにうまく実行されているからです。何かトラブルが起こったら、上司は責任を負うことになります。そのとき、いつもは見えにくかった命令の存在がわかることになります。
【3】成果物を的外れにさせない命令のやり方
本連載(第139回)で、はっきり命令しないからトラブルが起こるという大橋武夫氏の論説を紹介しました。ここで「命令」の明確性は、上司と部下の関係で調整され変化することになります。部下に業務を任せる場合、次の二つが重要ポイントになります。
・上司の意図について部下の理解度
・任された業務について部下の実践力
上司の意図と部下の任務を上司がどのように示すかによって、命令にはこれまで述べてきたように4つのスタイルがありました。上記の重要ポイントをどのように詳細化すればよいか、その程度によって4つのスタイルが分類されるということができます。
【4】情報流通のスピードが前提となる
当然のことながら命令も情報のひとつですが、DXにおいては情報の流通スピードが大前提となります。流通に際してはまず迅速であること、そして次は情報の質が問われることになります。しかし、「情報の質を問題にする前に、まずは量が大事である」という見解があります。これはおつき合いしている企業トップの持論で「情報はまずはスピードと量(質は後でよい)」と言われます。素晴らしい卓見ですね。DXについてきわめて実践的な方法論のひとつに違いないと考えます。
そもそも、各自の身の回りの業務で「何が組織にとって重要な情報であるか」は、必ずしも認識・共有されているかどうか心許ない状況があるのではないでしょうか。全社的な会議(例えば品質会議など)において、このような認識・共有にバラツキがありそうという観点から新たな重要情報の着眼点を見出すことができます。情報の量や質と合せてスピードの観点があることはDX時代に欠かせない意味があると思われます。