プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第139回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか
ボート経営とおみこし経営(その4)

前回は、前々回に続いてボート経営の典型的な代表例として米国の戦争映画をとり上げました。極限状況においても戦いの現場でトップの暴走を抑止するための仕組みがありました。もちろん、仕組みがあるだけでは暴走を抑止することはできませんが、映画では部下が本来もつ権利を活用する場面が描かれていました。つまり、現場感覚の欠けている上司の命令に対して現場の状況を熟知している部下は作戦命令の変更を提案しました。最終的には上司の命令をそのまま受諾します。このとき、その受諾までのいきさつを記録に残しておくことを命令受諾の条件として部下が要請します。映画では、トップの命令が暴走しないようにする仕組みがきちんと描かれていました。
今回は、命令の基本的な機能について述べることにします。ボート経営、おみこし経営いずれにおいても上司の指示や命令は存在します。どのような経営であるかに関わらず、命令のスタイルとその機能を説明します。

【1】上司の責任と部下の役割
筆者が自動車会社に勤務していたとき、仕事の進め方に厳しい直属の上司(次長)のもとで数年間にわたり勤務したことがありました。筆者は課長代理の立場で数名の部下と一緒に仕事をしていました。上司である次長は、仕事の指示や命令のほとんどをまとめて筆者に指示していましたが、仕事の内容によっては部下に直接指示することもありました。あるとき、次長が部下のA君にひとつの仕事を直接指示していました。その仕事は確かにA君の専門分野で重要な意味のあるものでした。全員の座席はすぐ近くでしたから、二人のやりとりは筆者にもすべて聞こえていました。

次長の説明が終わって、普通ならこれで指示は終わりになるはずでした。ところが、かねてとは異なり、次長がA君に念押しをするのです。「僕(次長)は、この業務命令を担当役員から受けてきた。この仕事の責任は僕がとる」、責任をとる、とらない等は普通には聞いたことがありませんでした。続けて次長は「会社レベルでの責任は僕がとる。君(A君)はこの仕事をやり遂げることを僕に約束してくれ」と迫るのでした。仕事の難易度にもよりますが、現在ならパワハラになりかねない雰囲気でした。次長の考えとしては責任をとるのは管理職であり、部下にはそういう責任は無い。次長のこのような明確な認識を筆者は初めて理解しました。

ここで、陸軍軍人、企業経営者そして経営評論家であった大橋武夫氏(1906~1987年)の論説を紹介します。これは「兵法経営塾」のサイトで読んだことがありメモを残しておきました。本稿ではここにアップされていた記事(2014年5月時点のもの)に基づき書いています。現在のところわが国の軍隊について、一般的な世論においては必ずしも正当な評価をされていないと思います。しかし、仕事の進め方について優れたものがあります。本稿ではその一端を紹介します。

【2】はっきり命令しないからトラブルが起こる
大橋氏は次のように述べています。
(1)我われは本能的に命令を嫌う傾向にある。しかし、それは命令というものを理解していないからであり、真剣な仕事をしていないことによるものである。
・・真剣な仕事をするために命令は必須であり、避けられないということです。

(2)組織のトップは命令を出して責任の所在を明らかにする義務がある。中間管理職は必ず命令を出してもらい、自分が負いきれないような責任を伴う場合はこれを引き受けるべきではない。
・・命令を拒否できるのはどのような場合か、それを明確にしています。

(3)命令は、受令者(部下)に業務を実行するように要求するとともに、その結果起こりうるトラブルについては、いっさいを発令者(上司)が責任を負うという保証なのである(但し、日常的な定例業務はこの限りではない)。
・・命令を出した側に全ての責任がある、と明らかにしています。

(4)上司は命令すべきものであり、部下は命令を歓迎すべきものである。しかし、我われは命令することを遠慮し、そして命令されることを本能的に忌避する。 どうすればよいか?
・・命令を出すほうも受けるほうも忌み嫌う、確かに現在でもそのような感じがしますね。これはおみこし経営に固有のものと思われます。では、どうすればよいのか?次がその回答です。

(5)それは命令のスタイルを工夫し、号令・命令・訓令・情報などのスタイルをうまく使い分ければよい。
・・ひと口に「命令」と言っても、じつは様ざまなスタイルがあり、号令、命令、訓令、情報などに分類できるとのこと、その奥深さにちょっと驚きます。そして「うまく使い分ければよい」のだそうです。

【3】4つのスタイルはどうなっているか
命令をうまく使い分けるために、4つのスタイルを整理・分類してみます。
命令の二大要件は、「上司の意図」と「部下の行なうべき任務」とされています。4つのスタイルを命令の二大要件(意図と任務)で整理して表にしてみました。

命令のスタイルと二大要件の関係


【4】それぞれのスタイルの特徴
4つのスタイルにおいてそれぞれの特徴が次のように説明されています。
(1)号令
・号令は、部下にその任務だけを示し意図は示さない。
・号令は単純で使いやすいが、ややもすると各人の努力方向がばらばらになり、組織の総合力を発揮できない欠点がある。また人数が増えたり、仕事が忙しくなると、いちいち号令などしてはおられなくなる。
・そもそも部下は上司の意図がわからない(伝えてもらえない)ので、状況に変化があった場合に臨機応変の処置がとれないし、部下間で相互の協力もしにくい。
(2)命令
意図も任務も示す場合、両者の整合性が取れていないと部下が現場で混乱する。
(3)訓令
号令とは逆に上司の意図だけを示して、実施方法などの任務は部下に一任する。
(4)情報
上司は意図も任務も示さず、何らかの情報のみを示す(命令の対極に位置づけ)。

それぞれの特徴を紹介しました。我われとしては、軍隊ではない企業組織において「命令」をどのように適用していくか、次回に続きます。