プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第145回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代の命令(その5)

前回、ボート経営ではなくおみこし経営が主流の我われはそもそも命令することになれていないことをとり上げました。また「我われは本能的に命令を嫌う傾向にある」ことも紹介しましたがこれも大いに思い当たる節があります。映画やTVドラマで「オレの言うとおりにやれ」といった場面は、わが国に比べれば米国のほうがはるかに多いように感じます。前回、わが国の社会の知的体力の基礎として読み・書き・そろばんをとり上げました。ここで、我われは伝統的に会話(文字どおり、会って話すこと)に重きが置かれていなかったと述べました。つまり、会って話すよりも文章で伝えることに慣れ親しんでいます。であれば、会話で伝えるスキルも必要ではありますが文章で伝えるほうが有利ではないだろうかと述べました。

今回もこの続きです。DX時代になって様ざまなかたちでの情報共有が進んでいます。このような背景をふまえると、命令のスタイルとしてこれまで紹介してきた4つの分類は明確でなくなり新たなかたちが必要になるのではないかと考えています。

【1】仕事、作業、業務とは何か その定義
命令には必ず何らかの仕事をやることが必要になります。仕事には必ずその目的と成果物が必要になります。成果物に関連して業務や作業があります。ここでこれらの関係(定義)について述べておきます。まずは仕事についてです。筆者はプロジェクトマネジメントの研修講師を務めていますが、次のような図を使って成果物と仕事の関係を説明しています。

図 成果物とは
成果物とは、仕事の完了時にでき上がっているモノや状態


このような成果物の定義から、仕事・作業・業務などの関係を次のように説明することができます。

仕事・・成果物を得るためにおこなう一連の作業の集まり
作業・・仕事を構成する単位、仕事の下位にある概念
業務・・日常的あるいは定常的に継続しておこなう仕事


これらを開始するきっかけは様ざまです。いわゆるルーティン業務(定常的な業務)であれば、きっかけはほとんど決まっています。いちいち誰かの指示はなくても、ほぼ自動的にあるいは自然に開始されます。上司であれ部下であれ、これは同じです。社長などの組織トップであってもルーティン業務ばかりであると言ってよい状況があります。つまり、ルーティン業務であれば、きっかけとしてのコミュニケーションは基本的には不要であると言ってよいでしょう。

【2】上司の意図と部下の任務が共有されているか
命令に関して、この二つの要素をとり上げてきました。前項で述べたようにルーティン業務であれば「部下の任務」については、特別なきっかけは無くても通常どおりの手順で業務は遂行されます。命令などのコミュニケーションは不要で、せいぜい朝礼などでいつもの確認がある程度でしょう。これは「上司の意図」についても同様です。つまり、ルーティン業務においては上司の意図と部下の任務がつねに共有されている。従って、その都度のコミュニケーションは不要である。これは言われなくても当たり前のことですね、ここから「命令」はやはり特別な機会でなければ登場する必要がないことがわかります。逆に、いつも命令が飛び交っている職場は組織的なコミュニケーションの問題をかかえているとも言えます。つまり、上司の意図と部下の任務が明確に認識されず共有化もされていない組織であるということです。

【3】情報共有がカギになる
本連載第142回で筆者の体験を紹介しました。パソコンなどはまだ無い時代でしたが、大学ノートを使った業務日誌が有効に活用されていました。組織の技術とノウハウの伝承にじつに有効に機能していました。しかし、このやり方は情報共有という側面からは部下と上司というきわめて狭い範囲でしか通用しませんでした。DXに要請される閲覧性という観点からはまさに原始的でした。迅速性についても、サイクルは1日かかりますし、閲覧性についても過去のノートを調査するのは簡単にはできません。これらのことから、現代のDXにおける情報共有のありがたさがわかってきます。適切なコミュニケーションツールを装備すれば、テレワークにも出張時にも情報共有が迅速に誰にでも閲覧でき、過去の情報にもアクセスできます。

このような環境が組織メンバーの自律的な姿勢を育てることにつながります。
どのような時代であってもAIなどの機械に全てを任せることはできないでしょう。ヒトにしかできないことをヒトに任せる、そのための情報共有を機械化する。命令というコミュニケーションの手段は、やはり使用する機会はさらに減っていくことになるのでしょう。もちろん、このような未体験の環境で組織活動の健全性を保ち、さらに向上させるという課題は残っています。