カイゼンとは? 第四回

カイゼンの基本4 ~在庫の正しい持ち方2 可能であれば少ない方がいい~

先回は「在庫は罪固」と言われることが多いが、必ずしもそうではないというお話をいたしました。しかしカイゼンとして考えると、在庫は問題がないのであれば少ない方がいいのですから、やはり在庫を減らす事は大切です。しかしここにも意外と見落とされていることがあります。在庫は一部門だけではきちんと減らせないことが多いのです。

まず減らす在庫の対象を材料在庫と製品在庫の2種類として実例をご紹介します。

材料在庫の例
プレス加工A社のコイル材置き場でのことです。同じように見えるコイル材がたくさん並んでいるので不思議に思い表示を読むと、材質は全く同じで数センチ単位で幅の違うモノでした。置き場はコイル在庫で溢れていて混乱状態なので、幅の違いによる種類を減らせないかと考え幅違いが多くある理由を聞くと、ずっと以前に材料歩留まりを向上せよというトップの強い指示があり、製品ごとに歩留まりが上がる幅のコイル材を設定したのがそのまま続いているということでした。現在は製品も変わっているので細かいコイル幅に意味がないと思い、幅違いによるコイル材の種類を3分の1に減らすこととしました。その結果、在庫が減り、場所が空き、運搬が減り、錆の発生などによる品質の劣化が激減し、加えて品種ごとに行っていたコイル材の入れ替え作業が減り作業が楽になり生産性も向上しました。材料歩留まりが悪化するかもしれないと心配しましたが、設計や技術にも協力してもらい効率的なパターン配列のカイゼンを実行したところ、歩留まりは以前より向上したのです。

この例に見られるように材料在庫は、歩留まりを上げるためのカイゼンや原材料のコストを下げるためのまとめ買いなどのカイゼンをした結果、却って経営効率を低下させているケースが多々みられます。材料在庫がスタッフに管理されている場合、現場が管理する中間在庫や完成品在庫と違い、在庫削減カイゼンの対象から外れていることもあるのですが、必ずカイゼン活動の一環にしなければいけません。

製品在庫の例
安全用器具を作っているB社のカイゼン会での出来事です。B社ではまず倉庫の5Sを実行しました。不要なモノを廃却した上で同じモノを一か所にまとめた置き方にしたので、現場はとても分かり易くなりました。

整頓をしたことで種類ごとにモノを見られるようになり、在庫の持ち方が気になり始めました。海外の工場(外注)で生産している5色のカラーバリエーションがある製品の置き場を見ると、色ごとの在庫量が大きくばらついているのが分かりました。赤・青・黄・黒・シルバーの5色の中で黄色の製品だけが突出してたくさんありました。トータルでは目標通りに売れていたので問題にならずにいたのですが、その内訳に大きなばらつきがあったのです。

更に詳しく見ると、売れ筋の黒とシルバーはもうすぐ在庫が切れてしまいそうな量なのに、黄色は既に納入された数ロットがほとんど手つかずの状態でした。このままでは売れ筋商品は欠品し、黄色は不良在庫化しそうな状況が見えました。私が社長に「黄色の製品が売れていないようですがどういう対応をしていますか?」と聞くと、「最低ロット数が決まっているので変えられません。」という返事が返ってきました。社長は契約をしてしまっているから変えられないと思っていましたが、注文の総量は変えずに、黄色の注文を止めるのであれば先方にとっても品種が減りその他の色ごとの生産量が増える好条件になるのですから、すぐに先方に計画変更依頼をしたところ、先方もOKし変更が実現しました。必要最低数の在庫をまず確保した上で、その後適正量の在庫を持つようにする手を打ったのでB社は製品在庫を減らすことができました。

製品在庫の削減には材料在庫に比べ更に各部門の連動、情報の共有、在庫の正確な把握が必要です。製品在庫を適正量持つということは、部門単体ではなかなか実現しづらくレベルの高いカイゼンだということがわかります。B社は生産ロットカイゼンの例ですが、自社で生産する場合でも、まとめて作ってしまい製品在庫が増えてしまうことがしばしばあります。なかなか出荷する機会がない在庫は製品の状態維持(酸化や錆の防止)などの管理コストもかかってしまうことがあり、一度に多く作る方が生産性は高いと思っていたのに計算してみると、実は発注数だけ作った方がコストは安かったということもよくあり注意が必要です。

最後に、在庫削減では、最初に全社で在庫の持ち方のルールを決めて、曖昧さをなくすことが重要です。例えば、倉庫は80%までの面積は使用可能とし20%は常に緊急時対応として空けておく、適正在庫量の算出基準をルール化するなどです。そしてそのルールは1シーズンに1回は更新するなどのこまめなメンテナンスを前提とします。「在庫は最初から考えて作られるモノでなければならない。できちゃった在庫は罪庫、計算された在庫のみが在庫である。」と考えましょう。