カイゼンとは? 第三回

カイゼンの基本3 ~在庫の正しい持ち方 1~

新しいシリーズの「カイゼンの基本」は、5Sにおける意外に見落とされているポイントから書き始めました。次のテーマを考えたときに、私自身のカイゼン手順では5Sの次は在庫としているので、今回は在庫における同様なポイントについて考えることにしました。

先日塗料メーカーA社のカイゼン会で、効果が大きいカイゼンの発表がありました。全国の営業所から毎日バラバラに入るいろいろな注文を、工場はほぼその順番で生産していたのですが、それを営業部の協力を得て、数日間の幅の中で同じ種類の製品をまとめて作るようにしました。同一品種をまとめて作るので段取り回数を減らすことができ、生産性と品質を向上させ更に材料ロスも削減したという内容でした。効果金額が非常に大きく社長は大喜びで私も大変に感心したカイゼンでした。しかしその説明をして下さったリーダーが、「このカイゼンで生産性は上がったのですが、在庫が増えてしまったので、これではカイゼンといえませんよね」とおっしゃいました。私は「とんでもありません、これは実に素晴らしいカイゼンで、金額効果だけでなく、品質も生産能力も上げていて経営に大きな貢献をしています。この製品は会社の主軸製品なので在庫を持つことに問題はありません。在庫の適正量について今後話し合ってみてはいかがでしょうか。」と対応しました。

明らかに素晴らしいカイゼンであるにもかかわらず、これではカイゼンと言えないと思ったのは、きっと現場に「在庫は罪固(ざいこ)」という言葉が強く根付いているからではないか…と思いました。この言葉はインパクトが強いので、多くの方の頭にしっかりと記憶されているのです。

しかしすべての在庫が罪固ではなく、現場には減らしてはいけない在庫、あるいは増やすべき在庫もあるのです。ここを間違えるとカイゼンが逆効果になる可能性もあります。そこでまずは「罪固と呼ばれる在庫」と「そうでない在庫」を分けて、どのように合理的に在庫を持つべきかを考えたいと思います。

持ってはいけない在庫とは、例えばせいぜい半年に一回しか注文がない製品であるにもかかわらず、段取り替えなどの準備が大変だという理由で、次の注文が来るという前提で多目に作ってしまうといった在庫です。この結果、保管場所が増えて現場が狭くなり、長期間在庫として放置されるので品質を維持することが難しくなり、在庫が資産として計上されるので税金がかかり、もし売れなかったらかかったコストがすべて回収できないということになります。こういう見通しが付かないものを見込みで作るのは罪固になる可能性大です。

このような極端な例ではありませんが、設備故障や納入遅延、あるいは欠品などの突発の変動に対して在庫があると対応が楽になるので、多くの人が在庫を持ちたい気持ちを持っているといっても過言ではありません。たとえほんの少しでもそれぞれの人が楽をしたいという理由で在庫を持つようになると全体の量は莫大になり、損失も大幅に増えます。そこで、そのようなことが起きない様に「在庫は罪固」のような厳しい言葉が使われているのかもしれません。

在庫をしっかりと持つべきであるが、生産現場だけでは十分な判断ができず本来持つべき量を正しく持てていない場合もあります。半導体やレアメタルのように、突然に国内外からの納入が途切れたり、価格が大きく変動したりするものもあります。その場合は通常の生産管理面での判断のみでなく、営業部門や財務部門も入り資金繰り面での判断も行い、備蓄も含めて最も効率的な在庫量を決定することや、それ以外の調達ルートの研究なども必要でしょう。世の中の変動が大きいので、営業は自社の生産ラインの能力を把握し、発注、生産、在庫管理等必要な部門と連携をして、価値が変動した時に対応できる準備をする必要があります。

あるいは賞味期限(消費期限)があるものの在庫の持ち方は複雑です。工場内だけでなく、流通やその後の停滞なども考慮する必要があり、営業や技術との連携を十分に行って期限切れによる廃却や売り損じのムダが極力少なくなるような管理が求められます。

カイゼンとして考えると、在庫は問題がないのであれば多いより少ない方がいいのですから、在庫を減らす事は大切です。この点については次回にお伝えいたします。