プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第148回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代の命令(その8)

前回まで7回にわたって「命令」について述べてきました。そもそもわが国のようにおみこし経営が主流となっている組織では、どのようなかたちであれ命令という雰囲気は積極的には出されないことが多いのです。命令には4つのスタイルがあるという説明も、わが国ならではの雰囲気があります。たぶん、4つのスタイルという使い分けは欧米流のボート経営であれば全く不要なのでしょう。つまり、ここではトップダウンによる命令が何の問題もなく実行されます。その点、わが国の命令は細やかな使い分けができます。これはおみこし経営とセットになっていて、おみこしの担ぎ手たちの自主・自律の姿勢を引き出すことにつながっています。
今回は、DX時代の命令についてこれまで述べてきたことのまとめを述べることにします。

【1】命令には4つのスタイルがある
命令とは必ず上司と部下の関係で登場します。そして、命令の二大要件として上司の意図と部下の任務がありました。本連載(第139回)で、はっきり命令しないからトラブルが起こるという大橋武夫氏の論説を紹介しました。重要なことは、上司の意図と部下の任務を上司がどのように示すかによって、命令には次のような4つのスタイルがあると定義されていました。

号令  命令  訓令  情報


日本語の漢字表現が優れている特長がここにも現われています。号令はラジオ体操のようにやることかなと思います。四つのうち三つは「令」を使っていますから同様なグループで何かしら程度が異なるのだろうなと推測します。ところが四つ目は「令」が無く「情報」ですからかなり異質な感じがします。命令というグループ分けには当てはまらないのかもしれないと感じることもできます。ここで命令の英訳をネットで検索すると、次のように4つの単語が表示されました。

demand  order  command  direct


英語は日本語の漢字表現と異なり、単語の意味を知らなければお手上げです。上記のうち、orderくらいはレストランでのオーダーと同じかなとわかりますが、基本は単語の意味を知らないと理解できません。ネット検索でたまたま4つ、日英で同数になりました。偶然の一致ですが面白いですね。それはさておき、この4つの英単語表現には上司の意図と部下の任務といった要件で、すっきり定義できるかどうかはわかりません。英語堪能な読者の方にぜひお聞きしたいところです。

【2】命令ではなく目指す状態を明らかにするやり方がある
わが国発祥のカイゼンの5S活動はきわめて奥深いと感じます。ここでは最後に目指すものは職場のしつけ(規律)です。規律とは、決めたことは守る、上司の命令が行き届く、例えばこういったことを指しています。この活動で規律のひとつ前の段階に位置づけられるのは清潔(な職場)です。そして、そのためには整理・整とん・清掃を日常的に実践することが欠かせない。5S活動は、このようにじつに合理的で筋道だった体系をもっています。規律ある職場のためには、シンプルなことの日常的な実践から始まる。これは、どちらかと言えば命令を多用することがない我われ日本人には大いに参考になります。つまり、規律ある職場のためには目に見える清潔な職場環境を目指せばよい。規律は目に見えませんが、清潔な職場は誰にでも把握できることです。5S活動におけるこのような考え方は、ここで話題にしている「命令」がいかに組織に行き届くようにできるか大きなカギがあります。命令の表現よりも、命令が達成された状態を重視して伝えることがその基本となります。

【3】DXツールが果たす命令への効用
DXによって情報の入手、分析やその活用が革命的に進化しました。命令4つのスタイルにおいて「情報」というスタイルの命令がありました。まるで、現在の情報革命を予期していたような印象を受けました。それだけ、時代を問わず情報活用の重要性は変わらないということでしょう。ここで命令のひとつのスタイルである「情報」について再度その二大要件をみておきます。

「情報」という命令スタイルでは
上司の意図:開示無し → 隠すわけではなく意図は相互に共有されている 
部下の任務:説明無し → 説明は無くても任務に必要なことを理解している


DXによって、上司と部下でさまざまな情報を共有することが従来よりもかんたんにできるようになりました。もちろん、情報の評価は人によって異なることはあります。命令に際して、その評価についての相互のすり合わせは必要になることでしょう。部下の任務達成についても、任務に必要なことをすべて理解したからといって必ずしもうまくいくわけではありません。ここでの主題は、命令というコミュニケーションがどういうかたちで円滑におこなわれるのかでした。

DXツールは二大要件のうちのひとつである「上司の意図」の説明や解釈に大きな効用(効き目)があることがわかります。その命令の背景にある情報について上司と部下の間でより良く理解できる、ここに真価があると思われます。

(次回に続く)