先回は不良を早期に発見することの大切さを述べ、そのために各工程で検査を実行するカイゼンなどについてお話ししました。今回はその不良を発見するための検査についてお話しいたします。
不良の発見には検査が必要ですが、すべての不良が検査で見付けられるわけではありません。不良を発見する方法がなかったり、合否判定が難しく検査結果がバラついて正確な品質保証をできなかったりすることも多々あります。
冒頭、各工程で検査をすることをご提案しましたが、すべての工程検査で合格した部品を標準通り正確に組み付けても、完成品が不良となることがあります。検査に合格したといっても合格の範囲内に入ったということであり、その幅でバラついています。もしすべての部品が合格スレスレの状態であれば、組み立てられない場合もありますし、完成品が不合格になる可能性も十分あります。この場合、最終完成品が検査可能であれば問題はありませんが、自動車のエアバッグのような製品では、きちんと作動するかどうかを検査しようとすると破壊検査になってしまうので検査できません。このような場合、完成品は抜き取り検査でしか保証できませんので、製造工程のカイゼンやシミュレーション技術の導入などで品質保証の仕組みを更にレベルアップすることが求められます。ですので、各工程の検査もOK・NGの判定以外に、検査結果が狙う値に対してどのようにバラついているかを記録して、変動幅を少なくして工程能力を上げていくカイゼンを実行していただきたいと思います。
次に人が目で見て検査合否を判定するケースを考えます。目視であっても取り付け部品の有無など判定基準が明らかな検査はシンプルで標準化し易いですが、キズの有無やバリの位置や大きさなどの総合的な基準で合否判定するような検査は複雑で標準化が難しく、人によるバラツキが起きやすいのです。自動車部品を製造しているA社のカイゼン会で赤箱に入れられていた不良品をチェックしたところ、肉眼では見えない小さなキズしか付いていない十分に良品と思われる製品が数台入っていました。その場で限度見本と現物を見比べると明らかに良品であったのですが、以前にお客様に不良の流出が多発し大問題になった時から検査が神経質になり、合格レベルの小さなキズでも見付けると不良にしてしまうことが当たり前になっていたのです。不良の流出は止まったものの、過剰品質となり大幅コストアップになっていました。
品質は経営に直結する大切な項目です。私は品質問題を部分的な対応で済ませないで、より広い部門の参加で捉える仕組みがあることが大切だと考えます。A社では、毎日夕方に工場長中心に製造はもちろん、設計、技術、品質管理、生産管理などの部門の人たちが現場に集まることになりました。その日に発生した不良の現物を見ながら議論して原因を追究し、できるカイゼンはその場で実行し、すぐに解決できない問題は担当部門を指定してカイゼンを実行し後日報告するといった仕組みです。前述の過剰品質の問題は、全担当者を対象に品質管理部門が現物見本の使い方の講習を行い、判定基準を再徹底したことで過剰品質の問題は即座に解決されました。その後は合否判定レベルを平準化する「目合わせ会」を毎月開催していますが、そのような部門交流から品質意識が高まり、本来の不良の発生もカイゼンで半減しました。私はこのような品質カイゼン活動に「QRQC(Quick Response QC)」とか「宝の山会議」といった名前を付けていますが、ぜひご参考になさってください。
それまで現場の皆さんは、もちろん品質は大切だと思っていましたが、自分でできる活動の域を超えてのカイゼンはありませんでした。しかし今回このような複数の部門が集まって議論をしてカイゼン活動を行うことで活動が活性化したのです。私はこれからのカイゼンのレベルアップにこのような全体最適の活動は欠かせないと考えています。
今回は2件の検査の事例をお話ししましたが、人が行う検査を正確に実行し続けることは決して簡単なことではなく、多くの会社でカイゼンの必要性をお感じになっていることと思います。まずは現場でどのような検査で品質が保証されているのかの実態把握をすることをお勧めします。品質向上だけでなく生産性向上などに結びつく多くのヒントが得られると思います。