2月になりました。
以前と較べるとかなり暖かくなったとは言え、やはり寒い日が続いています。この寒さで、以前腰痛に苦しんだ時のことを思い出しました。
5年ほど前の冬、私は突然の腰痛で歩けなくなりました。はじめは寒さによる冷えが原因だと思い使い捨てカイロをたくさん貼って様子を見ていましたが、どうにも良くなりませんでした。病院で診察を受け治療の鍵は筋肉の柔軟性と分かったので、それ以来、朝晩のストレッチを欠かさず行うようになりました。その結果、腰が痛かったことを忘れるほど回復しておりましたが、ある日の朝、寝坊をしてストレッチをせず出勤したところ、激しい腰痛が再発し、連続して30mも歩けないという以前の状態に戻ってしまいました。その日は腰をかばいながら過ごし何とか帰宅しましたが、ストレッチをしなかったことへの後悔と、腰痛再発への不安に苛まれました。
そんな時、以前にイチロー選手が野球をしている子供たちの「どうしたら野球で強くなれますか?」という質問に答え、「みんなは負けた時はなぜ負けたかの分析をするけれど、勝った時は喜んでしまい、なぜ勝てたかの分析はしないよね。でもこの勝った時の分析もとても大切で、これをやるともっと強くなれるよ!」とアドバイスしていたのを思い出しました。私は健康な日常を送ることができている要因を、痛みのない日が続くことでどこか忘れてしまっていたのかもしれません。痛くない日でも必ずストレッチをすることが大切だったのです。そこに気付いた今は、ストレッチを欠かさず行い更にやり方もカイゼンし、以前にもまして快調な状態を保っています。
実はカイゼンにおいても同様なことが以前指導先の会社でも起きていましたのでご報告いたします。A社では今期、品質、生産性共にカイゼン目標の約2倍の成果が出ました。これまでも同様のカイゼン活動をしてきており、また特別な設備導入などもなかったので、今回の大きな成果に驚きました。
私は前出のイチロー選手の話にならって、この成功したカイゼンの理由を分析をしようと工場の皆さんに提案しました。皆さんはこれまでに経験したことがない突然の提案に首をかしげておられましたが、とにかく一緒に考えていただきました。すると、驚くことに出てきた要因は、具体的にどのカイゼンが良かったという意見ではなく、期首に従業員全員から仕事上の悩みについてのアンケートを取って、困りごとを聞いたことではないかということでした。アンケートに対して高齢従業員の大半が作業姿勢による腰痛を訴え、若手からは組み立て作業で樹脂部品をセットする指が痛いという訴えが多くありました。それをきっかけに、多くの従業員が長年にわたり我慢をしていたことを、社長判断で対応可能なものは投資効率などの制約をかけずにすべて対処したのです。その結果、運搬姿勢を楽にするキャスター付きの台車を大量に導入し、指で部品セットしていた作業には指を使わず作業できる道具が用意されたのです。
この台車や道具のカイゼンで作業時間が大幅に短縮されたわけではないので、生産性向上の観点で見ると一般的には効果は多くありません。しかし、このおかげで仕事上の困難やストレスが軽減したこと、社長が現場に対して距離感が縮まったことなどが複合的に作用してカイゼンの実行力が向上したのです。会社が、自分たちが長年抱えていた悩みを聞いてくれ、自分たちが望んでいたことが実現しヤル気が起き、その結果としてできた大きなカイゼン成果を会社に高く評価されたことでモチベーションもさらに大きく向上したと思います。人への投資を増やしたことが今回の好成績の理由だという結論になりました。
お金をかけないカイゼンはもちろんすばらしいことです。外部に頼らず自分たちのチエや手を使って人が成長するからです。一方、お金を使うカイゼンも、今回のように人を大切にしてより高い能力を発揮していただくことで大きな成果が生まれるものであり、これもすばらしいカイゼンであると断言します。
A社は今期のカイゼン成果を更に伸ばしていくために、来期に向けて更なる人材育成と環境のカイゼンを計画しています。成功体験の分析をしていなかったら気付かなかったことかもしれません。イチロー選手が言うように、悪くなったら直すことだけでなく、良くなった時も分析してカイゼンすることで更なるカイゼンの可能性を見付けましょう!
日本カイゼンプロジェクト
会長 柿内幸夫