プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第168回

プロジェクトチームの休憩室(16)

連載の前回は、海外出張で注意すべきこととして滞在ホテルで宿泊証明書を必ずもらうことを述べました。これが無いと出国時の空港で現地お巡りさんのアルバイトに付き合わされることになるからでした。贈収賄が社会に常態化したロシアに出張するとき、このような欠かせない注意書きの発行元は何とモスクワにある日本大使館でした。まるで民間の旅行業者のような丁寧さだと述べました。ところが、このような贈収賄の蔓延どころではない国があることも書きました。お隣の大国中国では、外国人が理由も無くいきなり拘束される事態が頻発しています。わが国の政府はこのような理不尽な暴力に全く対抗できません。また、国民一般の考え方にもわが国政府と共通するところがあります。今回は、このようなわが国の困った偏向について述べることにします。


事実を事実として受け入れることができない
中国に限りませんが、わが国の周囲にはロシア、北朝鮮などの独裁国家だらけです。民主主義国家であるはずの韓国も相互の係争地に軍事基地をつくっています。このような観点から、わが国の周囲には危ない国が密集しています。前回述べたビジネスリスクについて「政治的なコメントは控える」という空気がわが国には少なからずあります。マスコミをはじめとして政治・経済の社会ではとくにそのような空気が多くあります。筆者のようなコメントは「政治的」と分類されてしまいます。筆者は本稿で今そこで起きている事実を述べているに過ぎませんが、わが国では「事実を事実として受け入れる」ことはこのような問題においてはほとんどタブーになっているように感じます。言い方を換えれば政治のことは関係ない、経済のことだけに集中しよう。つまり政経分離です。これは自分勝手なリクツに過ぎません。そもそも基本的なことを忘れたふりをしているだけでしょう。

ビジネスの基本倫理とは
これはウソやごまかしが無いことに尽きます。わが国社会では例えばタクシーに乗ればメーター料金をそのまま支払います。お店で何かを買う場合、値札通りのおカネを支払います。値札には価格が書いてありますが、お客によってその支払い金額が変わることはありません。もっとも、このような正札販売は江戸時代に呉服店の越後屋が初めて取り入れたやり方だったそうです。それまでは客によって販売価格が変わっていたようです。正札販売の普及で我われは安心してモノを買うことができるようになりました。

文明国では、だいたいこのような原則が通用します。このような原則が通用してこそ文明国であるとも言えるでしょう。我われの日常生活や国際間のビジネスにおいても同じです。

基本倫理が通用しない国がある
ビジネスの基本倫理としてわが国には近江商人が大切にしていた「三方良し」があります。三方とは売り手、買い手、世間の三つです。たんに誰かが儲かればよいということではなく、取引関係者だけでなく、その社会に対しても「良し」でなければならない。資源小国のわが国が世界で大きく発展できたのはそのビジネスがまさに三方良しに基づいていたからでしょう。

ところがこのようなビジネスの基本的な倫理が通用しない国では、文明国では当たり前の正規のビジネスはできません。前回の本欄でビジネスの基本的な倫理が共有できない国とは一切取引しない、そのような方針を貫いている企業があることを紹介しました。しかしながら、目先の利益だけを重視して相変わらずこのような国と唯々諾々とビジネスを続けようとしているのがわが国経済界のトップです。

目先の利益だけを重視するわが国経済界のトップ
本年1月、わが国経済界のトップ層が合同で訪中し懸案を話し合ったそうです。その中の問題のひとつとして日本人ビジネスマンの不当な拘束がありました。これについて何らの進展も無かったと報道されています。わが国だけがとくに不当拘束が多い理由(わが国法制度の不備など)もあるようですが、わが国経済界のトップは何も対抗措置がとれなかったのです。例えば、このような不当拘束が解消されなければ、貴国とおつき合いするわが国企業は激減するだろうと率直に伝えることもできたはずです。この国で働く日本人社員はいつこのようなひどい目にあうかわからない状態が続くわけです。それはひとえに企業経営者の責任となります。今回の訪中使節団はいざというときどのような措置をとれるのでしょうか。筆者には、わが国経済界のトップたちは目先の利益だけを重視しているとしか見えません。いずれ、取り返しのつかない大きな代償を支払うことになることを恐れます。