プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第116回 番外編

番外編(22)これからの中小企業 勝ち残りの道

前回の番外編(21)では、職業人として本質的に欠かせない守るべき道について述べました。ギリギリの状況で判断に迷うとき、自問自答するための三つの質問を紹介しました。また、それ以前に必要となる企業内の業務プロセスについて望ましいあり方を述べました。情報共有のためのDXツール、プロジェクト進ちょくの見える化、品質会議のあり方などを工夫することにより不正行為などとは無縁になることを説明しました。
今回は、番外編最終回としてこれまでの重要ポイントをまとめたうえで、これからの中小企業において勝ち残りの道を考えることにします。

【1】これまで述べてきたこと 三つの分類
今回の番外編は22回にわたって様ざまな話題を思いつくままとり上げました。これを次のようにある程度共通する課題をもった三つのグループに分けてみました。それぞれにつけたタイトルは、識別のためこれまでの連載からそのままもってきたものです。

(1)従業員が豊かになれば社会が発展する(番外編その10
このグループでは、会議の空気やその場の空気などの話題がありました。そして、わが国の多様性やカイゼン現場の多様性もとり上げました。わが国は欧米企業とは異なり、おみこし経営によって現場の活力を引き出しています。さらにその活力のもとになる終身雇用の意味と価値を述べました。また、従業員が豊かになれば社会が発展すると考えて行動した米国の自動車王ヘンリー・フォードの意図と行動を紹介しました。

(2)虚業を排除し実業を進化させるDX(その15
ここでは、現場の生産性向上だけではなく知的レベルアップが欠かせないこと、そのための論理的思考を常識にすることを述べました。そのための第一歩は文書記録の蓄積でした。企業内の業務に限らず、社会の様ざまな業務をラクにする観点から、実業と虚業という定義を試みました。そして、DXとは虚業を排除し実業を進化させるものとしました。DXとは単なる電子化ではなく、現在の業務から現場の智恵を抽出しなければ独自の資産にはならないということになります。

(3)こなすとさばく(その4
プロジェクトに限りませんが、目的の明確化や理由や意味付けがきわめて重要な時代になりました。プロジェクトの目的が明確で賛同できればチーム全員のやる気が出ますし、応援団も増えるでしょう。そのために、いま何が求められているかを把握するための全体観が欠かせません。こなす(熟す)とは熟練を意味しますが、さばく(捌く)とはうまく処理することであり、自分の専門外のことであっても問題解決の糸口を見つけ解決の方向を描くことです。

各グループを以上のように短文にまとめると、これからの企業経営に活かすべき方針や行動が浮かび上がってきます。これらのグループごとに、訴求点を整理しました。(1)~(3)に対応して、【2】~【4】のように新たなグループ名称にしてみました。

【2】組織の豊かさとは多様性と風通しの良さ
わが国のおみこし経営の最大の特長は様ざまに異なる意見の存在があること、多様な考え方が許容されることでしょう。これは同時に日本文化の特長でもあります。これが組織の風通しの良さにもつながっています。同時に、職業人として欠かせない守るべき道が自然に醸成されることにもつながります。組織の豊かさとは、このような文化的な豊かさがまず必要と考えます。経済的な豊かさにおいて、わが国は世界的に遅れを取っていますから大きな課題として残ります。とはいえ、儲けるためなら何でもやるといったグローバル企業も存在します。これらの企業とは一線を画して異なる道を追求する必要があります。

【3】知的レベルアップと実業を進化させるDX
今回の番外編は「論理的思考を常識にする」から始まりました。わが国全般の課題として、論理的思考に慣れ親しむ必要があります。業務を虚業と実業という観点からの識別は、業務のDX化にも役立ちます。DX化において電子化・機械化先行ではなく、まずは業務における隠れた組織のノウハウを見出す、それをさらに発展させることが欠かせないでしょう。文書記録の蓄積、ソフト資産の活用などに着眼することが組織の知的レベルアップにつながります。組織の知的レベルアップに伴って、生産性向上という概念はこれまでになかった領域に拡大することになるでしょう。

【4】目的思考と全体観 プロジェクトとさばく技術
これからの時代、プロジェクトを活用する機会は増えるでしょう。商品や製品の大幅な利益や原価の改善、社内の組織や人事・教育制度などの見直しや改革、拠点の新設や統合・廃止、他組織との共同事業などのニーズが高まります。これらを決められた期間内で的確に実行するにはプロジェクトというかたちをとるのが便利で効果的なことは間違いありません。プロジェクトの成功に必要なことは、何のためにやるのかという目的を明確にできること、そしてそのプロジェクトをとり巻く社内外の環境からプロジェクトの位置づけを客観的に把握できることです。

プロジェクトの経験をつむこと、つまり場数を踏むことには職場環境の制約があります。ただ、日常業務では「さばく」と「こなす」などのスキルを意識することでプロジェクト活動に必須の「さばく技術」に習熟することができます。さばく技術は仕事の達人の道につながると同時に、プロジェクトマネージャーに必須のスキルでもあります。

【5】おみこし経営を補完するサービス
本連載で、欧米によくあるボート経営に対してわが国のおみこし経営が優れている点を述べてきました。しかし、弱点もあります。時として、経営トップは独断で方針を打ち出し実行する必要が生じます。現在のような変革期には、とくにそのような機会が増えることになります。このような場合に、おみこしの担ぎ手たちに何がしかの意見を求めることはできません。部分的であれ、現在の仕組みを根本から改革するような案件は、社内に相談できる人物は基本的にいないのです。

日本カイゼンプロジェクトではこのようなおみこし経営の欠落部分を補完するサービスをご提供しています。既存のコンサルタントサービスは、コンサルタントの知見をベースにするので依頼主の希望と微妙なあるいは大きな差異が生じやすい傾向があります。我われのご提供するのは「相談サービス」です。経営トップの良き相談相手になることを基本とします。経営トップと対話を重ねることで目指す境地は次のようになります。

二人で肩をならべてゴールとなる遠くの景色を共有する


日本カイゼンプロジェクトの講師は経営コンサルタントではありませんが、対話のプロとして研鑽を積んでいます。