プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第91回

社長、それではプロジェクトは失敗します。
 (その10)リクツが通らないものはダメです。

前回までの2回(第89回第90回)は番外編でした。まず、ボート経営のリーダーシップは難しいことを述べました。わが国の経営は基本的におみこし経営が主流となっており、トップダウン式のボート経営は多くありません。番外編では、二人の都知事の政策展開でいずれもトップダウン式なのにうまくいったやり方と反発を受けたやり方を紹介しました。もうひとつの番外編では、丁寧なおみこし経営が、いざというときは従業員に対して退職を迫る事例を紹介しました。
今回は、ボート経営とおみこし経営のいずれにおいても共通するポイント、リクツが通るかどうかについて述べることにします。

【1】ぎを言うな
これは筆者の出身地である鹿児島の方言です。「ぎ」とは論議や討議の議のことです。先輩からの「ぎを言うな」は「リクツを並べ立てるのはもうやめろ」ということでした。従って、それ以上の発言はできない。そういう慣習がありました。合理性や論理性を重視する観点からは、これはとんでもない悪習でした。現在ではそのような悪習は無くなったと思っています。

【2】背景にある場当たり的行動
方言は消えても、この傾向は別のかたちでわが国全体に深く根を下ろしています。このような傾向が何らかの行動になるとき、ほとんどつねに場当たり的で後先を考えない行動になってしまう。このような行動によって、様ざまな問題が起こります。これらの行動に共通するのは次のようなことです。

①目前の問題を解決することだけが目的となる
②その問題の背景にある構造的な問題には考えが及ばない

このような状況で、プロジェクトを立ち上げても「リクツが通らない」ことになります。リクツが通らないことは、どこかに無理があります。最初からプロジェクトの成功を危うくしています。
筆者は郷里の方言「ぎを言うな」の意味するものは、まさにリクツが通らないリーダーシップのひとつだったとの思いを深くしています。

【3】二つの施策に見るリクツの通りやすさ
番外編でとり上げた東京都知事の提起した二つの施策をみていきます。これらは行政の分野の事例ですが、プロジェクトを企画運営する立場からも共通します。

太陽光発電設備の設置義務化
再生可能エネルギーの普及という目的そのものは世界的な課題となっています。大義名分としては文句無しです。反対する人は誰もいないでしょう。ただ、大目的のためにいきなり「義務化」という具体的な方策が出ています。これでは誰もが疑問をもち反対してもおかしくないし、「それ無理筋だね」ということになります。無理筋とはふつうに考えて無理があることを言います。都の提起した施策は無理筋と見なされる。これをつきつめると、リクツが通らないということになります。

都内へのディーゼル車の乗り入れ制限
空気汚染のひどさを視覚的にアピールした環境対策は、その方針提示だけで都民の賛同と支持を得ることができました。対策を受け持つ側として自動車メーカーや運送などの業界が抵抗勢力になることがなかったので、施策は実行されました。対応する業界としては技術的な問題や設定された期間など無理筋と感じることは多かったと思いますが、都の施策は実現しました。リクツがすっきり通る施策だったからでしょう。故石原都知事のリーダーシップによる優れた業績のひとつと言われています。

【4】真っ当なリクツが信頼を勝ち得る
前回の番外編(第90回)でとり上げたのは、おみこし経営による丁寧なマネジメント事例でした。ここでは、職場の雰囲気を暗くすることは社長の考えに反することでした。社長としては次のような思いや考えがありました。次は、第90回の該当する記述から抜粋したものです。

・従業員それぞれが職場で責任をもって自律して仕事ができることが必須である。
・職場の環境を整えることが社長の仕事であり、安全で安心して働ける職場にする。 
・そのような職場の雰囲気を損ねる人は面談・協議する。それでも改まらない人は辞めてもらう。

米国では従業員をかんたんに解雇することが法律で認められています。「お前はクビだ。私物をまとめて30分以内に出て行け」などを映画やドラマで見かけます。これに対してわが国の事情は全く異なります。従業員の解雇はかなり難しいことです。従って「改まらない人は辞めてもらう」にはかなり強いものに感じます。しかし、辞めてもらう理由に「リクツが通っている」ので、従業員の信頼につながっています。

企業の経営は、エンドレスのプロジェクトと言えます。プロジェクトのオーナーが解雇という強い手段を使うことが、逆に信頼を勝ち得ることになる。筆者はそのように理解しています。