プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第141回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代の命令(その1)

前回、命令としてあるべき姿は訓令であると述べました。訓令は命令する上司が意図だけ示して任務の詳細は部下に任せるやり方です。このやり方なら、部下が任務(具体的な行動)を実行するとき創意工夫を引き出すことができるようになるからでした。もちろん、このやり方(訓令)は、部下の実力を把握しながら使っていく必要があります。任務の実行に際して実力が伴わないところは、相応の配慮(部分的に応援するなど)が必要になります。とはいえ、我われは本能的に命令を嫌う傾向にあることも事実として認識する必要があります。
今回は、DX時代の命令について考えてみます。ボート経営またはおみこし経営のいずれの経営スタイルであっても、また組織での立場がどのようであっても命令を効果的に使いこなすことは欠かせないと思われます。

【1】キミの提案はデタラメだ!
経営者や上司が部下との対話でやってはいけないこととして、筆者の体験を紹介します。自動車会社の開発部門にいたとき部門のトップがA副社長に交代しました。管理職としては直接の付き合いがありますから、どういうタイプの人物か誰でも気になります。A副社長は技術系ではなく、人事部出身の方でした。人事部だけでなく、米国生産拠点の立ち上げ、本社企画室、海外営業部門などを歴任して、今回、開発部門を担当することになったのでした。しばらくして、筆者の直接の上司である開発部門のB取締役から新副社長はどういう方であるかを教えてもらう機会がありました。

彼によるとA副社長に何かを提案すると一応聞いたうえで「キミの提案はデタラメだ!」と言う。何を根拠にデタラメかはわからないが、「ここで引き下がってはダメ!」。これがB取締役のアドバイスでした。次にこう言えばよいと続きます。「副社長はここで提案する技術をご存じないと思いますが・・」、これで初めて本気で聞いてくれるとのことでした。今ならこれはパワハラに分類されることですね。場合によっては「上司の暴言」になるかもしれません。筆者はA副社長とそのような機会には巡り合いませんでしたが、会議その他で会話の機会は幾度かありました。実際に会って話すと会話が弾み大局観のある魅力的な方でした。

【2】雇用主が守るべきこと
命令には4つのスタイルがありました。筆者は企業組織においてこのような命令を効果的に使いこなすことが欠かせないと考えています。そのためには健全な組織運営のための前提条件がいくつかあります。ここではまず勤務時間についてです。経営者や上司は従業員の勤務時間をきちんと守ることが必須となります。

モーレツ経営で有名な方があります。休暇はお正月の半日だけと聞きました。まあ、これは個人の自由です。1年間365日休み無しで働いていただいて差し支えないのです。もちろん、本人だけのことです。この方の経営する工場で操業開始が午前8時とすると、管理職は1時間前の午前7時に全員集合するのだと聞きました。ずいぶん以前のことですから、現在においてもそうかどうかはわかりません。従業員を雇用する経営者の方々に対して筆者はつねに尊敬の気持ちをもっています。しかし、雇用するにあたっては守るべき前提条件があるはずです。モーレツ経営を未だに賛美するマスコミもありますが、高度な文明国であるわが国を開発途上国とカン違いしているのでしょう。

【3】1日は24時間と平気で言う上司
わが国は民主的で世界のトップに位置する高度な文明国です。従業員を自分の狭い了見だけで働かせることは論外です。まず、勤務時間はきちんと守ることが必須となります。終業間際になって「明日9時からの会議で使うから」という会議資料作成の業務命令などは厳に慎んでもらう必要があります。筆者の体験ですが、こういうとき上司は「1日は24時間」と平気で言っていました。現在ならばれっきとしたパワハラです。こういうことが横行するようでは健全な組織運営などできるわけがありません。

【4】はっきり命令すればトラブルは起きない
命令のスタイルとしては、号令・命令・訓令・情報などがあり、これらをうまく使い分ければよいと説明してきました。そして、命令としてあるべき姿は訓令であると述べました。わが国の特徴としておみこし経営が多数派と思われます。ボート経営のように「オレの命令だ、これをやれ」といったようなやり方はしっくりしないように思います。それでも経営の意思を実現するために「命令」はつねに必要になります。「はっきり命令しないからトラブルになる」、これは本連載第139回で述べたことです。命令を苦手とするなら、これの逆の表現とすれば「はっきり命令すればトラブルは起きない」となります。これなら、リスクに対する予防対策のような雰囲気も感じられます。経営者や上司の方々、いかがでしょうか。