私がコンサルタントになってまだ新米だった頃のことです。化粧品製造A社のカイゼン会で一人の女性作業者(Bさん)が手作業で高級クリームをビン詰から個箱に入れて検品するまでの全工程を行っていました。工程は①ビンのエア洗浄、②ビンにヘラでクリーム詰める、③クリームの上部にセロファンをかぶせる、④ビンにキャップをする、⑤ビンを化粧箱に入れる、⑥外観検査の6工程であり、1工程毎に10個ずつのビンを取るロット作業をしていました。左手と右手の両方が毎回モノを取り置きするのでとても忙しい動きであり、更にビンを取り置きする際にビン同士をぶつけない様に注意していることも気になりました。
クリームやフタなどの材料や部品のレイアウトを見ると、工程順に並んで取り易く置かれていました。そこで「一回つかんだら放さない」作り方で、左手にビンを持ったままで、右手でクリームを詰め、次にセロファンをかぶせ、キャップをするように連続して工程を進めれば少ない動作で1個が完成し、ビンをぶつけて傷つけることもなくなるので早く楽になると思いBさんに提案しました。
私はBさんが喜んでくれるに違いないと思っておりましたが、「私は長いことこの仕事をして来てこれが一番早いと分かってやっています。仕事をしていない人が勝手なことを言わないでほしい!」と思いっきり反論されました。若かった私も主張を曲げなかったので議論が収まらず、工場長がそれぞれのやり方を実行して結果を見てみようと提案されたので、Aさんが2通りの作業をすることになりました。最初にAさんが慣れたまとめづくりをやったのですが、普段から慣れているので速い動きでした。次に私が提案した1個づくりをやってくれたのですが、慣れていないという理由で明らかに遅いスピードでの作業でした。私はほとんど負けを覚悟しておりました。ところが、小差ではありましたがそれでも私の勝ちでした。
この場合の動作を分解して考えると、10個ロットのまとめづくりの場合は左手で毎回ビンを取り、右手でキャップなどの部品を取り、組付けてそれを置くという取り置きを各工程ごとに10回繰り返すので、全6工程でビンの運搬回数は60回となります。しかし一個づくりの場合は、ビンは一回つかんだら放さないので、10個すべてを作った場合のビンの取り置きは10回のみです。右手の動作はヘラの取り置きを除きどちらもほぼ同じなので今回は明らかに一個づくりの方が速いといえるのです。その上、ビンは一回つかんだら完成させて箱に入れてしまうので傷が付く恐れもありません。もちろん、部品をセットする側に面倒な道具が必要といった段取りがある場合はまた違うことになりますが、この場合は段取りがないのでこの方式が効果を生むのです。
私は動作をカイゼンする時の切り口を見つける方法として、「動作経済の4原則」を使います。①距離を短くする、②両手を同時に使う、③動作の数を減らす、④楽にする、の4項目なのですが、この場合は、①、③、④の項目が改善され、4項目のすべてが当てはまります。1個ずつ完成させるので、10個を置く場所が不要になりモノが近くに置けるので距離が短くなり、取り置きの動作が減り、少ない動作で製品が完成するので楽になったのです。まだ経験が浅かった当時の私は単なる慣れや感覚ではなく、動作経済の4原則という原理原則に沿ったカイゼンを確認できて良かったと思いました。
ちなみに、この時は私のやり方が勝ったので、工場長がBさんに作業方法を1個づくりのやり方に変えてみるよう指示をされました。彼女は従いましたが、渋々であったように思え、私は申し訳ない気持ちになりました。その2か月後、私は再度A社工場を訪問し彼女の仕事場に伺ったのですが、彼女はすっかり1個づくりに慣れており、私を見るや、この仕事のやり方に慣れてとても楽になりましたと言ってくれました。私は本当に嬉しかったことを覚えています。そしてその時、自分の話し方にも問題があったと気付き、話し方の勉強を始めてカイゼンでき始めておりました。現場と自分の両方をカイゼンできたとてもいい経験でした。