プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第119回

プロジェクトのゴールはリーダーの思いで決まる DX時代のプロジェクト(その3)

前回は、前々回に続いてプロジェクトはゴールから考えることについて述べました。プロジェクトの目的を明確にするためにプロジェクトの名称に「~のための」という語句を追加することを紹介しました。またプロジェクトの最終的な成果物をさらに明確にうかびあがらせるために成功基準という考え方、これは成果物についてその達成レベルを設定するやり方でしたが、これを紹介しました。例えば、経験のある手慣れた設備を導入する場合に稼働率の目標値としては既設の設備での経験値(実績値)が参考になります。この状況で成功基準として稼働率の目標値だけでなく「立ち上げからどのくらいの期間で目標値を達成するか」などを追加することを述べました。手慣れた設備の導入だからといって同じ目標値だけでは進歩がありません。これらはすべて、プロジェクトの最終的な成果物を明確にするためのやり方に含まれるものでした。
今回もプロジェクトはゴールから考えることの続きですが、ゴール設定についてこれまでとは異なり定量的な設定が難しい場合、つまりリーダーの思いや熱意などの主観的な要素が大きく影響するプロジェクトについて考えてみます。

【1】職場のレイアウトを一新する
例えば既存の設計チームのスペースがもっと広く取れることになったとします。こういう状況を活かして既存の職場のレイアウトを一新する場合は、まさに適切なプロジェクトのゴール設定が必要な場面と言えます。どのような組織であれ職場のレイアウトは機能的なことがまず必要な条件ですが、企画者(またはプロジェクトのリーダー)の意思はさらに重要です。この組織に最も必要なことは何か、あるいはやってもらいたい従来にないことは何かなど企画者の思いがあるはずです。

例えば設計チームの場合、もっと研究・開発チームとの情報交流を密にしてほしい、あるいは設計と生産管理のコミュニケーションをタイムリーにすべき、などの観点や要望があるかもしれません。企画者としてこれらは設計チームの要望とは別に最重視すべきことになります。従って、ゴール設定、つまりレイアウトの骨格は企画者自身の考えをもとにつくり上げることになります。

【2】既存の組織を再編成する
例えば、全社的に機能別の組織であったものを事業部制に再編成する(各事業部にすべての機能をもたせる)取り組みは大手企業ではとくに珍しいことではありません。筆者が勤務した自動車会社でも、商品開発と設計について事業部制にしたこともありました。いずれのやり方にも一長一短がありましたが、その後は機能別組織で定着しているようです。

中小企業の場合、機能別組織か事業部制かといった選択はあまり無いと思われます。しかし、何らかの改革を起動したいときには、既存組織の再編成は効果的な方策になります。例えば、既存の仕組みでは若手社員の育成がなかなか進まないといった状況があるとします。製造現場の一部に若手育成のモデル職場を設定するといったやり方があります。ここで成功事例を獲得して将来の組織再編のための知見を得ることができます。また、別の事例として経営トップがこれからの一連の改革にあたっておこなう全社的な組織再編があります。これについて筆者がおつき合いした企業での体験を述べます。

この企業では、現在はまだ稼ぎ(売上)になっていないが将来のための商品開発に専念する部門と現在の売上を稼ぎだしている部門、組織をこの二つに再編しました。以下は、企画者である社長からお聞きしたことです。両者は異なるカルチャーだから、評価は同じ観点ではできないし、働き方そのものも大きく異なる。明確に別の組織であることを、まず全社員に知ってもらいたい、とのことでした。組織再編と言えば機能別組織か事業部制かという程度の知識しか無かった筆者はこのような説明を聞いて目が覚める思いがしました。その後、社内での様ざまな改革活動において社員の方々の大きな意識変化とそれによる行動変容は、まさにこの組織再編が大きな働きをしたと実感しました。

【3】部門横断チームで改革課題に取り組む
筆者が自動車会社財務部門の全社改革チームに所属していたときの体験です。設計部門改革の一環として、改革プロジェクトを企画したことがありました。まずは自部門の役員と一緒に設計部門の役員に趣旨を説明しモデル職場を選んでもらいました。設計現場からは経験豊富なベテランAさんが専任でプロジェクト活動に参加してもらうことになりました。結果としてこの方が実に熱心に取り組んでもらうことができプロジェクトの大成功につながりました。

プロジェクトの課題としてAさんが選択したのは、部品の種類が多くなり過ぎたので整理整とんし設計業務を効率化することでした。企画者としての筆者は外部のコンサルタントもメンバーに入れていました。社内の設計メンバーだけではプロジェクトの推進力が弱いかもしれないと思ったからです。コンサルタントからは的確なヒントをもらえましたが、プロジェクト推進の主力は設計現場のベテランAさんでした。生産部門からのメンバーも参加し、プロジェクトの課題選択からそのゴール設定まで、このAさんが中心になってプロジェクトを推進しました。選択したテーマが全ての関連部門にとって現実に困っていることを解決することでしたから、プロジェクトメンバー全員が協調しながら取り組むことができました。

【4】定量的なゴール設定が難しいプロジェクト成功のカギ
ここまで三つの事例を紹介しました。職場のレイアウトを一新する、既存の組織を再編成する、部門横断チームで改革課題に取り組む、これらのプロジェクトに共通することは定量的なゴール設定が難しいという特徴がありました。そもそもプロジェクトのゴールとは何かもあいまいなまま開始するプロジェクトもありました。差し迫った状況では、現実にそういう状況でもプロジェクトを起動したいことはありえます。そこでのプロジェクト成功のカギは、ご紹介した三つのプロジェクトに共通すること、すなわち企画者(またはプロジェクのトリーダー)の強い思いと行動でした。

今回述べたことは、プロジェクトの一般原則から言えば少し逸脱することになるかもしれません。しかし、企画者の強い思いを周囲が支えればプロジェクトを成功に導くことができるということを示しています。このやり方は一見すると欧米によくあるボート経営(全てがトップの指示で動くやり方)のように見えますが、組織におみこし経営の文化(トップが目指すべき方向を示せば個々のメンバーもその方向に行動する文化)があるわが国だからこそできるやり方ではないか、筆者はそのように感じています。