前回は、DX時代のプロジェクト(その1)としてプロジェクトはゴールから考えることについて述べました。プロジェクトのゴール設定が的確で大成功したわが国の新幹線の事例をとり上げました。また、欧州の鉄道業界では列車の正面衝突などの事故防止のためにゴール記述による分析手法(GSN)が活用されていることも紹介しました。すべての活動において、企画者や指示する立場においてゴールを明確に意識することはきわめて重要な課題になります。具体的な事例として、職場に5S活動を導入するプロジェクトを想定してプロジェクトのゴールとは何かを説明しました。
今回は「プロジェクトはゴールから考える」の続きです。プロジェクトの企画者としてゴール設定を的確にするためのポイントを述べることにします。
【1】プロジェクトの目的を明確にする
プロジェクトに限りませんが、どのような仕事であれその仕事の目的を明確にすることが欠かせません。前回と同じ事例で、職場に5S活動を導入するプロジェクトについて考えてみます。
生産工場で製品の不良率を低減させたい、製造ラインの稼働率を上げたいなどの差し迫ったニーズがあるとします。そのような課題にいきなりアプローチするやり方もありますが、職場環境によっては必ずと言ってよいほど難航します。お薦めのやり方はまず5S活動に取り組み、職場環境を整えておくことです。職場環境についてはハードとソフトの両面がありますが、5S活動はこれらの両面から職場環境の整備にアプローチするやり方です。ハード面としては例えば、ラインサイドに不要品などが雑然と積上げられていたり、設備からのオイル漏れが放置されていたり・・。ソフト面としては、やるべき手順を手抜きしたり、約束や指示を守らなかったり・・。
こういう状況は大いに問題があります。例えば、製造ラインの稼働率を上げるための活動をやるために、先ずはこのような環境をスッキリとさせ清潔な職場にする必要があります。前回、「5S導入プロジェクト」として次のようなプロジェクト名称を紹介しました。この名称を今回少し変更してみました。
前回:5S導入による清潔な職場づくりプロジェクト
今回:清潔な職場づくりのための5S導入プロジェクト
「~のための」という目的をプロジェクト名称において明確にしました。これで、5S活動の目的は安全でスッキリとした清潔な職場づくりであり、5S活動はそのための手段であることが明確に伝わることになります。
【2】プロジェクトのゴールを構成するもの
プロジェクトの最終的な成果物を、本稿ではゴールという呼称にしています。ここでゴールの構成について説明しておきます。
図 プロジェクトの成果物とは
清潔な職場づくりのための5S導入プロジェクトの場合、具体的な内容は次のようになります。
目的 整然とした職場、整備された設備・・、
成功基準 清潔な職場維持率など
ゴール(最終成果物) 清潔な職場
成功基準とは耳なれない言葉ですが、成果物の達成レベルのことです。清潔な職場と言っても「いつもチリひとつ無い」ことはかなり難しいレベルでしょう。他の一例として外部からの工場見学者がいつあっても大丈夫なレベルをキープする、などのように設定もあります。これもかなり高いレベルです。現在の状況から、適切なレベルを検討して設定することになります。
【3】成功基準の適用例
成功基準はプロジェクトの専門用語ですが、的確な仕事のために大いに役立ちます。その適用事例をいくつか紹介します。
①顧客企業に出かけて新商品説明会を開催する → 開催後のアンケート結果について高い評価(すぐに購入したい、機会があれば購入したいなど)について「80%以上」と設定する。
②社内に導入する新業務システム → 導入後3ヶ月間で従業員の使用率「90%」と設定する。
成功基準の設定は仕事以外でも使えます。
③学校や社会人などのスポーツ活動 → 初めてチームが結成された場合、来年の地区大会に「出場して1回戦は勝つ(1勝する)」と設定する。
成功基準の目的は、適切な達成レベルを設定することで期間中の活動を充実させることにあります。現状把握に基づいて設定することによって活動のゴールがより明確になり活動への集中度を高めることができます。
【4】仕事の進め方 経営トップの的確な指導が欠かせない
ややかたい言い方になりますが、仕事は上司が命令し部下がその任務を達成するという構図になっています。つまり、キーワードとして命令と任務、この二つがあります。これをプロジェクトにあてはめてみると次のようになります。
命令 プロジェクトの目的(成功基準がついている)を指示する
任務 プロジェクト実行に必要なすべての作業(納期や予算などの制約がある)を実行する
プロジェクトの場合は仕事の枠組みが割合にきっちりと定められています。他方、命令と任務の関係はプロジェクトに比べれば、仕事の枠組みは自由自在に、悪く言えば野放図に広がりやすい感じがあります。大手企業による最近の不正行為は命令する上司の存在があいまいなまま不正な任務の実行が常態化していました。
上司は部下がとても責任をもてないような不正な任務を命令してはいけないわけですが、部下が上司の命令に逆らうことは基本的に困難です。まして組織的な不正行為にひとりだけ逆らうことはできません。悪事は必ず露見し、最終的には経営トップが責任を負うことになります。かねてから、仕事の進め方に対して経営トップの的確な指導が欠かせないことは明らかです。