前回の番外編(22)では、これまでの番外編で述べてきたことをまとめる意味でこれからの中小企業において勝ち残りの道と題して重要ポイント三つをとりあげました。まずは「組織の豊かさとは多様性と風通しの良さ」、次に「知的レベルアップと実業を進化させるDX」、そして「目的思考と全体観 プロジェクトとさばく技術」でした。これらは、企業規模を問わず、また企業組織でないすべての組織において共通する条件と考えられます。
今回から、DX時代のプロジェクトと題してプロジェクトを企業活動に活用するための基本を述べていくことにします。今回はその1として、「プロジェクトはゴールから考える」です。
【1】ゴールが的確で時代を先取りしていた新幹線
わが国の新幹線は鉄道におけるイノベーションとして世界に認知され、多くの国々にそのコンセプトが普及することになりました。高速走行の安全性を担保する上下線完全分離や踏み切り皆無など前提にした軽量車体など、世界的に常識でなかったことを実現しました。わが国の新幹線は、欧米に比し安全面において一部に欠落部分があると筆者は考えています。それでも、全世界に向けて新たな社会的価値を生み出したことは間違いありません。ゴールのコンセプト、つまり目指したところがいかに的確で時代を先取りしていたかを感じます。
【2】ゴールを記述する手法がある
欧州の鉄道事故は列車どうしの正面衝突が多いと言われます。欧州はわが国のように上下線が必ずしも完全には分離されていないので、正面衝突事故が起きやすいのだそうです。正面衝突事故防止のため、事故そのものをゴールとして分析する手法があります(Goal Structuring Notation)。事故は望ましいゴールではありませんが、どういう条件が揃えばゴールが成立するかを分析するわけです。そのためにゴールを構成する条件や要素をすべて記述してみる。それらの条件や要素が決して成立しないようにすれば事故は防止できると考えていきます。大きな事故は、考えられないような様ざまな条件が重なって起きます。事故防止のために、ゴール(この場合は正面衝突事故)はどのような条件で構成されているかを記述する手法は、ゴール設定にしっかりした論理が必要なことを示しています。この手法は、ゴール設定のための正攻法または定石に従ったやり方なのでしょう。
【3】プロジェクトのゴール その一例
プロジェクトの場合、ゴールを決めるために前述のような論理的な手法はまず必要ありません。「このプロジェクトをやりたい」という意思さえあればできるパターンを紹介します。わが国で良く知られた現場カイゼンのやり方として5S活動があります。これを使って、つまり5S活動を職場に導入するプロジェクトを想定してプロジェクトのゴールとは何かを説明することにします。なお、本稿でプロジェクトのゴールとはプロジェクトの最終的な成果物(成果物とは仕事の完了時に出来上がっているモノや状態)を指しています。
5S活動の領域を次のように設定するとします。
まず、職場のメンバーに要請される活動としては、整理・整とん・清掃があります。「5S導入プロジェクト」としてこれらの活動は前提になります。この前提のもとで、導入プロジェクトのゴール設定を変えることで、次のように二つのプロジェクトが考えられます。ゴール設定として5S活動の後半の二つのステップである清潔と躾(規律)、いずれを設定するかで異なるプロジェクトになります。それぞれについて、次のようなプロジェクト名称にしてみました。
①5S導入による清潔な職場づくりプロジェクト
②5S導入による職場の規律を育てるプロジェクト
職場のメンバーに要請される活動としては同様であっても、ゴールとしてどこを目指すかは意思決定の問題です。上記の①と②のいずれにするか、つまりプロジェクトのゴールは経営者の意思によって決まることになります。
【4】三つの制約条件下でのゴールの位置づけ
プロジェクトには三つの制約条件がつきまといます。ただプロジェクトを実行すればよいということにはなりません。まず期間限定があります。納期が決まっているのです。次に資源(予算、メンバー)が限られます。予算は決められており、プロジェクトメンバーも決められています(社内プロジェクトの場合、全く面識の無い人たちと一緒に仕事をすることになる。いきなりパワー全開とはなりにくい)。三つ目はプロジェクトのゴールが決められていることです。これら三つの条件はそれぞれ相反する関係にあります。例えば、ゴールを的確に達成するために充実させようとすれば、長い期間や十分なヒトやカネが必要になりますがそれらにも限度があります。
結論として、ゴールをどう設定するかがカギになるということです。ゴール設定がいかに的ハズレにならないようにできるか、ここにプロジェクト成功のカギがあります。期間や資源のやりくりよりも、ゴール設定は抜きん出て難しいことです。プロジェクトのリーダーが重視すべきことはまさにここにあります。プロジェクトのゴールについて、依頼主の意図を十分にくみとってゴール設定を間違い無いものにする。ここが最重点ポイントになります。