モノづくりの現場探求 第十七回

現場における“問題”とは? 3 ~発生型と向上型~

「向上型問題」は、実行したら確実に成果が出るのにもかかわらず、やらずに後回しにしているという問題です。カイゼンには特別な才能や技術は必要ありません。自転車に乗れることと同じで、練習すれば誰でもができることですから、非常にもったいない問題です。

向上型問題を解決するためには、全員がカイゼンで変化を起こすことを当然と受け入れる環境を作るのが良いと思います。良いアイデアがあれば、皆で実現する方法を考えて、助け合ってすぐ実行するようになればいいのです。

そのためにはまず社員が更に向上することの大切さに気付き実現のための問題提起をすること、そして社長がその問題を聞く時間を作る必要があります。社長の役割としては問題をよく聞き理解する、問題解決の判断をする、実行の許可をする、そのための時間を取るということから始まります。場合によっては他部門との連動のためのまとまった時間を作ることも求められるかもしれません。発生型問題に対して、向上型問題はまだ起きていない問題であり、さらに良くするための問題です。これは社員によっては無駄に感じたりや無理と思う方もいる可能性が高く、この問題を伝えることは簡単ではないかもしれません。

しかし実際には向上のための問題よりも、現場の人たちからできない理由が聞こえてきます。これまでやったことがないのでどのようにしたらいいかが分からない、仕事が忙しくてこれ以上の時間が取れない、あるいは自分一人や自部門だけではできないといった時に、誰に助けてもらえばいいのかが分からないといったことです。

そこで向上型問題を解決するために、これらのできないという課題を、社長を筆頭に全員がより良い結果に向かう姿勢にすることが必要となってきます。向上型問題を解決することは、すべての社員が自ら考えカイゼンを実行できる強力な組織を作ることになります。向上型問題の解決は経営レベルの課題です。

15分でも20分でもいいのでカイゼンをする時間を決めて皆で実行することをお勧めします。社員全員にカイゼンの実行力を付けてすごい能力アップを図るのです。社員全員が「できそうだ、やってみよう!」という気持ちを持つことが必要なのです。今日は全員でカイゼンをしてみよう、失敗しても責任は社長が負う。どんなカイゼンでもいいから、仕事終わりの30分にやってみよう、分からない人がいたら聞いてください。一緒に考えましょう。結果は社長に報告して下さい、という社長が元気に引っ張る感じです。これを毎月継続して習慣化していくと、全社のカイゼンレベルは向上し、その結果、変えることに一切の違和感を持たないような集団になり向上型問題の解決に役立ちます。

一人や一部門ではできない大きなカイゼンを実行する場合は、そのための時間や必要器材などを会社が支援するとうまく行きます。日本カイゼンプロジェクト会員の㈱熱学技術では毎月「カイゼン強化日」を一日設定し、基本的にその日は生産をしないでカイゼン実行をしています。数人のプロジェクトリーダーが中心になって数件のカイゼン計画を立て実行し、最後に発表会で締めるという活動ですが、確実に成果を上げています。全員参加で役割分担をしてカイゼンを実行することで、それぞれの人に責任感が生まれています。そしてカイゼン実行による生産性・品質などの成果と、従業員のチームワークやモチベーションの向上です。

国内株式時価総額一位のトヨタの「創意工夫提案制度」は全員参加型カイゼンで有名ですが、三位のキーエンスにも「気付き」という仕組みがあり、全員が常に新しいアイデアを出し続けることが強く求められていると元キーエンスのコンサルタントの方から聞きました。この二つの会社の仕組みも全員がカイゼンの実行を求められており、向上型問題の解決になっていると考えます。

「向上型問題」という言葉はあまり聞いたことがないと思います。実は今回私が作った新しい言葉です。しかしもしこの問題を見つけて皆で取り組めば必ず成果に結びつくという宝箱です。宝探しをしてみませんか。