前回の番外編(17)では、リコールなど企業にとってまずいことが不祥事や不正行為にならないようにするには風通しの良い職場がひとつの条件であることを述べました。わが国の社会では性悪説を前提とした施策は、限定した業務に限られます。経営トップとしては悪い情報こそ早期に知りたいとしても、我われ日本人の一般的な傾向がその妨げになることが多く存在します。納期に間に合いそうにない、組織の能力を超えているなどはギリギリの状況にならないと表面化しないことなどを説明しました。
今回は、風通しの良い職場の条件を定常的な業務の中で考えてみることにします。
【1】隣は何をする人ぞ
松尾芭蕉の俳句には秋深しという初句があります。有名な俳句には興味ある背景が語られているようです。これを企業内の状況にあてはめると、他の部署がどういう仕事をしているか、つねに相互理解を深めることが欠かせません。とくに自部署に対して後の工程であれば「後工程はお客さま」という考え方もあるほどですから、その位置づけと役割が理解できます。関係がどうあれ、「何をする部署だろう?」のような無関心さはこれまで述べてきた大きな災害の温床になりかねません。後工程の仕事がラクになるようなカイゼンを進める、同時に前工程の仕事の結果についてカイゼンを相談できる。まずは、このような協調関係をつくり上げることが「風通しの良い職場」の基本的な条件ではないかと考えます。
【2】既存の社内業務を改めて見直す
例えば設計の後工程は試作や製造になります。後工程としては、毎月の業務計画や作業編成のために前工程である設計からのタイムリーな情報が必要になります。設計としては、後工程に対して的確でタイムリーな情報提供が欠かせません。このために、従来は定期的な会議を設定することが当たり前のこととして実行されていました。テレワークの普及をきっかけにして、会議は廃止して社内のネットなどの活用が進んでいます。つまり、発信部署が情報の見える化を工夫することになります。もちろん、従来とは異なる仕様や部材が必要になる場合は関連部署が集まって協議する必要があるでしょう。
こういう場合は別として、定例業務としては発信する情報の見える化を充実させれば、情報伝達に際してのミスやロスタイムなども少なくなるでしょう。情報の見える化を充実させることは、双方の部署それぞれの最終的な成果物(アウトプット)を明確にすることでもあります。部署間の作業応援は、お互いの部署の相互理解を高めるための良い機会として活用できます。製品や部材の棚卸しのために、期末に他部署からの応援をもらうなどはその一例になります。
【3】既存の社内会議を見直す
本連載第109回、「虚業を排除し実業を進化させるDX」で、進行中のプロジェクトについて関係部署が集まる定期的な進ちょく会議は百害あって一利無し、と断言しました。念のためにその理由を再度引用しておきます。
・会議を開催することそのものが関係者の時間を浪費する
・プロジェクトチームは会議準備のための仕事に時間を割くことになる
・会議は責任追及の場になりやすくプロジェクトチームのやる気を殺ぐ
プロジェクトの進ちょく確認を主な目的とする定期的な進ちょく会議は、もはや時間を浪費するだけの時代遅れのマネジメントと言わざるをえません。時代遅れで、しかもチームのやる気を殺ぐのは困ると思われる経営トップの方々は、ぜひ本連載第109回(と第69回)をご参照ください。
社内で進行中のプロジェクトについて、進ちょく確認はおまけ程度で本質的な意義のあるプロジェクト会議であれば、定期的な開催が効果的に役立ちます。
【4】本質的に意義ある会議が担当者の知的レベルを高める
プロジェクトには、わざわざ手間をかけて立ち上げるだけの価値があります。つまり、明確な目的と目標があります。手作業を自動化して品質のバラツキをおさえて同時に生産性を上げたい、ベテランの技量をビギナーにも容易に実践できるようにしたい等など、必ず目的があります。目的の達成が短期間にできない場合は「第1期ではここまでを目指そう」などと達成の目標レベルを期間ごとに設定することもできます。予算についても、投資対効果を試算することもできます。このような検討事項について、従業員にとっては初めてのことであり、理解が難しいこともよくあります。経営陣にとっては常識レベルのことであっても、従業員にとってはそうとは限らないことが多いのです。プロジェクトが本質的にOJTに適した活動である理由がここにあります。
定期的なプロジェクト会議を、経営陣によるOJT実践の場にすることができます。具体的な案件にもとづいてプロジェクト担当者の知的レベルは確実に高まります。プロジェクトは計画段階から、その進め方が標準化されています。担当者としては、他のプロジェクトについての討議を聞いてそれも参考にすることができます。担当者の知的レベルが高まれば、疑問がわいてきてそれが質問になります。従って、経営陣の意図が的確に伝わるようになる。これこそが、最終的に組織の風通しを良くすることにつながります。