前回から、設計リードタイム短縮は設計改革への道として連載を開始しました。第1回(その1)は、チームの規律について述べました。製造やサービスの現場で実践されている5S活動を設計チームに適用します。5Sの最初の三つは整理・整とん・清掃ですが、ここでは四つ目を標準(作業)にしました。そして、五つ目では組織の規律(躾)を醸成することを目指します。議論や討議を尽くして出た結論には全員が納得して目標達成のための行動を起こす。そして、望ましい結果につなげるという規律です。
今回は、設計プロジェクトを日程計画どおりに進めるためにどうしても欠かせない進ちょく管理について述べることにします。
【1】進ちょく管理 よくあるまずいパターン
設計プロジェクトに限らず、どのような業務でも進ちょく管理は必要です。遅れがあるなら対応する必要があるかどうかを判断し必要なら対処策を決めます。しかし、そのために関係者が集まって会議(進ちょく会議)をやるとすれば、それは責任追及の場になりやすい。しかも会議では案件がいくつもある。結果として、かなりの時間を使いしかもストレスがかかります。かなりまずいパターンです。
進ちょく遅れの原因を説明するとしても問題解決に手間取ったのか、他の業務との掛け持ちで時間がとれなかったのか、本人でもよく説明できないことがあります。つまり、当事者ですら進ちょくがよくわからない。気がついたときにはりっぱに遅れている、ということが起ります。
結論として、進ちょくについて誰にでもわかる客観的な指標があれば進ちょくを確認するための会議は不要になります。進ちょく会議そのものが時代遅れであり、定期的に開催するなどは最悪のパターンと言えます。
ではどうするか?客観的指標を導入する一例を紹介します。まず、スケジュール立案のやり方を少しだけ変更する必要があります。
【2】実践的な2点見積り法によるスケジュール立案
スケジュール作成において見積もった作業時間を積み上げ、それにプラスしてバッファーを追加するやり方を「お薦めのスケジュール」として紹介しました。バッファーとは特定の作業のためではなく、遅れを吸収するための「余裕しろ」として機能させます。バッファーは全ての作業時間を「ギリギリ値」で見積もることによって捻出します(バッファーは見積もった作業時間合計の50%を基本とする)。本連載第13回で紹介した説明図を掲載しておきます。
図1 バッファーをつけたスケジュール
【3】客観的指標で見える化を
スケジュールにバッファーをつけたことで、バッファーの残量で進ちょくを管理することができます。バッファーはスケジュールの余裕しろですから、その残量によってプロジェクトの状態を見える化できます。バッファーが残り少なくなれば「赤信号」と判断できます。本連載第17回で紹介した説明図を掲載しておきます。
図2 バッファー残量で進ちょくを管理する
定期的にバッファー残量をチェックします。残量の信号が緑なら問題なし。赤信号なら予定しておいた対策を実行します。中間の黄色ならどういう対策にするか決めることになります。
バッファー算出の根拠は、担当者の自己申告に基づきます。作業が完了したものは実績時間がわかりますから、バッファーの消費量計算には何の問題もありません。着手中の作業において「あとどのくらいかかるか?」の回答は客観性が低下する恐れがあるかもしれません。そこが気になるときは「着手したらその作業は50%完了したとみなす」などの条件を設定します。(同時に、緑の領域を基準の33%から若干減らす方向に調整します)
【4】進ちょくの見える化によるバッファーマネジメント
「バッファーの残量がどのくらいか」を知ることにより、遅れの程度を把握し必要なアクションをタイムリーにとることができます。しかも、バッファーの残量は算出もかんたんです。これを関係者に見える化しておけば、時間がかかりしかもストレスの多い進ちょく会議などは不要になります。赤信号になったとき、準備しておいた対策を実施するだけで済みます。
生産性向上のためには「生産性向上を阻害する要因をつぶすこと」、これは筆者がお付き合いしている製造業経営者の確固たる方針です。たんなる進ちょく会議は、生産性向上を阻害する要因そのものになりかねません。進ちょくの見える化によるバッファーマネジメントが、設計リードタイム短縮への道につながります。