前回、スケジュールにつけたバッファーの残量を算出するだけで、誰でもプロジェクトの進ちょく状況がわかり、対処すべきかどうかその必要性の有無が判断できる優れたやり方を紹介しました。期日や納期を守ることについてどの企業でも苦労されています。これは何もプロジェクトに限らず、通常の業務でも同じような共通する状況があります。このような問題状況を解決するためには、納期を確約する仕組みづくりが欠かせません。そこで、仕組み構築のために必要となる基本的な二つの課題を2回にわたって解説することにします。今回は、課題のひとつであるスケジュールの「実力値」についてです。
課題1 スケジュールの実力値を把握する
【1】従来のスケジュール作成の問題点~逆線表の誤り
既に述べましたが(連載第11回)、指示された納期(締切日)から逆算してスケジュールをつくってしまうと「思考停止」という罠にはまります。そもそも根拠も無く、納期から逆算して日数を割りつけ見かけ上はできそうなスケジュールをつくったに過ぎません。いわゆる逆線表の誤りです。実力値に基づかないという矛盾を含むことは、スケジュールに限らず何であれすべて確約できません。
【2】実力値は変動する
通常の業務であれば、チームの実力値はどのような組織であれ「相場値」なり「相場カン」といったものがあると思います。それでも、キーパースンの異動などで変化することがありますし、メンバーが入れ替わったりしても実力値は変化します。また、職場によっては業務量の季節的な変動があります。例えば、受注量の増減などの外部要因の他に、来期の予算などの計画作成など内部的な業務集中もあります。同じ業務を同じメンバーでやるとしても、スケジュールの実力値は変化します。変化の要因をまとめると次のようになります。
スケジュール実力値を変化させる要因
①キーパースンやメンバーの異動、交代
②本来業務(主な業務、例えば受注量など)の変動
③社内の付帯業務の増減や集中
このような様々な変化要因のある環境で、実力値について「相場値」なり「相場カン」のみに頼ることはバラツキが大き過ぎて適切なやり方にはなりえません。
【3】合理的な「2点見積もり法」を採用する
このような環境において、「2点見積もり法」によるスケジュール作成が効果的です。このやり方の特長を改めて確認しておきます。
①ギリギリ値と余裕値によるシンプルなやり方は見積もりに高い精度を必要としない。
②従って、業務経験の多少に関わらず担当者の見積もり値をほぼそのまま採用できる。
③スケジュールにバッファー(余裕しろ)を含むので、バッファー比率を変更することで、スケジュールの数値を調節できる。
※バッファーとは、スケジュールに含まれる作業を割りつけない空白期間のことです。
これらの特長において、③スケジュールの数値を調節できる、これはとくに重要です。
【4】バッファー比率をどう決めるか
ここで、説明のため、前回もとり上げたお薦めのスケジュール【S】を掲載しておきます。
図1 お薦めのスケジュール(バッファー比率50%)
・最初はバッファー比率50%から始める
これまで述べてきたようにバッファーは「すべての作業の余裕合計」の50%としています。50%は経験に基づいた数値です。まずはこの数値から始めます。この数値が変動する主な要因は、ギリギリ値の定義を見るとわかります。
ギリギリ値(最短時間)は、作業が順調に進み、突発の割り込み仕事にも邪魔されない場合を想定しています。逆に、これらを含めたものが「余裕値」です。理想的な職場環境(仕様の変更や追加、突発の割り込み仕事が全く無い場合)では、バッファー比率は0%になります。
・プロジェクトに固有の比率がわかるようになる
プロジェクトが終了するたびに、そのバッファーの残量を記録しておきます。残量が10%であれば、比率の設定は50%ではなく40%でよかったことになります。これで、適切な比率がどのくらいだったか、その情報が集まります。数回のプロジェクト実行でこの比率がわかるようになりますから、これを基準の実力値にします。
【5】基準の実力値をもとに調節する
基準の実力値がわかれば、あとはバッファーの比率を調節するだけです。例えば、新規に受注した顧客の場合、事前の打合せ状況から、プロジェクト開始後の仕様変更や仕様追加がかなり多いかもしれないと想定し比率を基準に対して10ポイント加算するとします。基準が50%であれば、調節後の比率は60%となります。この場合のお薦めのスケジュール【S2】を掲載しておきます。
図2 お薦めのスケジュール(バッファー比率60%)
【6】体系的なやり方の合理性
スケジュールの実力値をこのように導き出すやり方の合理性は明らかです。
①基準となる実力値は、経験や実績に基づいている
②変動要因を総合したものを変数(バッファー比率)として扱うことができる
③逆線表のような矛盾を含まず、仕組みに基づく体系的なやり方である
従って、さまざまな状況に対応したスケジュールの実力値を信頼性のある体系的なやり方で算出できることになりました。
次回は、納期を確約するための基本的な課題の二つ目である「スケジュール短縮だけに頼らない方策を工夫する」発想の転換について解説することにします。