新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第13回

ヨーロッパの人は生卵を食べないのは文化の違い

● あるきっかけで料理を始め、作ることに興味をもちました
 ドイツでアパートを借りて生活をするようになったとき、週末に作る料理は焼きそばと野菜炒めだけでした。あとはソーセージを焼いたり茹でたりして、各種チーズを添えての簡単なそして質素な生活でした。日曜日は日本と違い商店街は休みで、日本料理店もほとんどがお休みという日本とは全く違う生活環境です。
 買い物も日曜日には、駅構内の一部のコンビニかガソリンスタンドの売店くらいしか開いていないのです。これで何度も失敗をして、ひもじい食事をすることが何度もありました。宗教に関した文化がベースになっていて、週末は教会にお祈りに行き家族でゆっくりと養生するのが一般的な生活です。でも教会行く人はごくわずかです。しかも教会税は強制的に納税しなければなりません。
 「食」に関するエッセイを書くことになり、原稿のネタとして料理をしないことには原稿が書けない状況になったのです。日本からも理調道具や各種調味料などを持ち込んで、次々とアパートのキッチンに取り添えました。
 何がきっかけになるかわからないものですが、これで毎月“松田亭”と称して、ホームパーティーができるまでに料理の腕が上がりました。前菜からデザートまで、10品もお出しすることができるまで幅も広がりました。関心と必要性があれば、何でもできる自信を持ちました。
 食生活の違いも次第にわかってきました。肉とチーズの種類の実に多いことは、日本の生成食料品の量と店に占める場所の正反対といえるほどです。卵を買うときにドイツでは、パルプ材の容器に入っており、レジでいちいち開けて員数確認するのです。日本は透明な樹脂ですので中身が見えます。
 驚くことにヨーロッパ人は、生卵を絶対に食べないのです。色々な人に訊ねても、病気になるとか考えたこともないなど、日本では考えられない返事が返ってきます。調理をして卵が玉子に変身したら誰でも食べますが、卵かけごはんは考えられないメニューだというのです。
 生卵を食べる人たちは、世界で日本と韓国くらいのようです。韓国料理のビビンバ、ユッケに茹で玉子はあり得ません。やはり生です。これも文化の違いでしょう。でもドイツで何度か卵かけごはんを食べましたが、問題はありませんでした。ちなみに生卵は、冷蔵庫に入れないで常温保管で使っています。これは彼らに習ってしまったようです。でも1個1個に賞味期限が印刷されており、律儀なことが伺えます。

● ヨーロッパは生ものを使った寿司ブームなっています
 ヨーロッパではドイツだけでなく、ハンガリーやチェコなどどこでも寿司ブームになっています。彼らが苦手としているのは、海苔の色である黒色の存在があるようです。日本では眼でも味わうともいいますが、料理の飾りつけや器にも彩りの様々なものが提供され楽しませてくれます。食の五色の考え方は、中国を中心として日本、韓国の文化ですが、世界的にもかなり限定されています。
 和食の五色といわれる「しょう・おう・しゅく、びゃく、こく」となり、青(緑)、黄、赤、白、黒(茶)の色のうち、彼らが苦手な黒の海苔の克服のために考案されたのが、おそらくカルフォルニア・ロールでしょう(日本人の板さんが考案)。カルフォルニア・ロールは、日本本来の海苔巻きの反対に、酢飯に海苔そして魚介類意外の具を巻いて、海苔をあまり見せなくしている工夫があります。次第に寿司に慣れてくれば、海苔巻きや魚介類を載せた握り寿司も食べるようになります。
 デュッセルドルフの繁華街通りを中心に盛んに店をオープンしているのが、ネイルの店と寿司屋です。しかし寿司屋の経営は日本人が少なく、ベトナムや韓国さらには中国といった人たちが多く見られます。最近は、タブレットで注文する店が大流行りで、ほとんどが日本人以外のお客さんで賑わっています。箸の持ち方の随分と慣れて、上手にはさんで食べているのが外からも伺えます。
 生卵は依然として食べることはありませんが、寿司をきっかけに生魚である刺身や日本料理にも、多くのヨーロッパ人も気軽に食べるようになったのです。食わず嫌いでしょう。見たり聞いたりしますが、多くの人は試すことが少ないものです。実際に試す人は1割程度です。

● 食べることの価値観の違い
 生卵を食べないのは、中世時代の疫病がトラウマになっていると想像できます。不衛生だったので、疫病が流行り多くの人がなくなったことが衛生面での危機意識をもっているようです。
 ドイツ人の食事の重点思考は、まず匂いです。特に焼いた肉の匂いは最高のようです。ですから多くの家庭では、BBQセットが庭にあります。しかも味付けは塩かコショウのみで、焼き肉のタレは存在しません。これはアジア系の習慣でしょう。次が大量に食べられることです。
 工場の食堂に行くと盛り付けはてんこ盛りになり、いつも「子どもサイズで!」とお願いするほど大盛りです。そして安価なことです。意外にも美味しいとか美しいというキーワードは、ベスト3には入りません。
 土曜日に街を散歩すると、午後一から精肉店はあと片付けを一斉に始めます。洗剤と一緒に、ショーケースだけでなく床までもきれいに洗い流します。その徹底さは、日本の比ではありません。日本でいう保健所がとてもうるさく厳しいと聞きました。
 以前日本人のやっているデュッセルドルフの有名な寿司屋に入った時に、ショーケースやカウンターの隅に脂分やホコリが溜まっているのを発見したことがあります。それから行くことはありませんでしたが、その後店はつぶれていました。日本やアジアの屋台は考えられなく、清潔さは彼らにとっては死活問題であるようです。