以前数えないで数えるという発想で、江戸時代から使われていた銭枡(ぜにます)という治具を紹介しました。64枚の硬貨を数えるのはミスしやすいので、64の凹みを設けた羽子板のような治具に硬貨を入れて前後左右に振っていくものです。そうすると、すべての凹みに収まれば64枚=1両に換金できた治具です。数えなくとも数えることができる極めて優れた発想と仕掛けでした。
このような発想で、「運ばないで運ぶ」という事例を考えてみましょう。意外にも生産現場にはあるものですが、このような発想をしたことがなかったので気づかなかっただけです。例えば、今では1個流しでコンベアは不要なU字ラインになってしまったようですが、以前はコンベアで流し生産をしていました。U字ラインや屋台ラインには、今度はコンベアに変わってラインの外から部品を供給するために、シューターが導入されるようになりました。段ボールを、折り曲げれば出来上がりです。紙ホコリが気になれば、プラスチック段ボールがあります。カッターとL字に固定する結束バンドがあれば、すぐに実施できます。
さらには、人が介在しなくても無人搬送車(AGV)で運ぶ方法も多くの企業で導入されるようになりました。しかも自作することにより、ローコストを実現されています。もっとこの考え方を発展させると、オペレータが処理していたゴミ捨てもしなくても済み水すまし要員に任せられます。そうするとオペレータは、ラインから出なくても済みます。
ピッキングした台車を移動する時に、樹脂製のキャスターでは振動してピッキングした部品を落下することもあり、ゴム製のタイヤを装着した運搬台車に載せた事例もあります。親亀の上に子亀が載るイメージです。それは工場の建屋間のマーシャリングカーであり、空港の事例を生産ラインにも応用して、最大8台まで連結して運搬をしています。
この考え方の応用編として、「検査しないで検査する」考え方もあります。品質保証するには、全数検査が求められます。でも工数がかかるので、これも何とかしたい思いがあります。計測するのはなく、判定するやり方だと簡単にできます。例えばノギスで寸法を測るのではなく、GO-STOPゲージで代用する方法もあります。ノギスにあらかじめ寸法を入力して、OKならば緑のランプが点灯しNGから赤となり、読み取らなくても色の判別で簡単に判定ができるものもあります。
ずぼらな精神は、アイデアを生み出すせこい方法ですが、誰もがもっている能力です。現状維持ではなく、発想をちょっとかえればもっと便利な方法が見つかるものです。他にも「探さないで探すな」と色々と考えられます。
ないから何でもできるという発想は、岡山の友人の日高さんに気づかせてもらいました。日高さんは、岡山県井原市美星町にある「中世夢が原」という武家屋敷がある観光施設の管理をしておられた時に知り合いました。「松田さん、ここは何にもないけど逆に何でもできるんですよ」と本当にさりげなく教えてもらいました。当初は、誰も知った人がなく行事を紹介するポスターも、一軒一軒訪ねて貼ってもらうことから始めたそうです。
アフリカから打楽器の演奏者を呼んでコンサートをしたり、武家屋敷で神楽を催したり、竹を切って竹とんぼをつくったりなど、実にたくさんの行事や催し物を企画されてきました。何もないからこそなんでもやっちぇ!という精神に度肝を抜かれ、その後は心の師匠となっています。
資源やアイデアがないように見えますが、しばらく考えを張り巡らしていけば見つかるものです。それらはないということではなく、まだ見つかっていないと思えば見つかるものです。できないとか無理だというマイナスの発想は、心のサイドブレーキだと称して、こんなもんとっちゃえ!とっちゃえ!!と叫ぶと自然と顔もほころんできますよ。