プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第88回

社長、それではプロジェクトは失敗します。
 (その9)思い付きだけのプロジェクトはダメです。

前回は、プロジェクトのほったらかしについて述べました。また、ほったらかしと丸投げとは異なり、社内プロジェクトでは良い丸投げもあることを紹介しました。プロジェクトの目的や最終成果物について経営者とプロジェクトチームできちんと共有できている場合、どのように進めるかはチームに任せるほうがうまくいくわけです。つまり、プロジェクトの目的や最終成果物を共有することがプロジェクト成功のカギということでした。
今回は、社長の思い付きでプロジェクトを始める場合について述べることにします。

【1】そもそもプロジェクトの特長とは
プロジェクトが世界的に認知され、専門とする企業が数多く存在するわけはどういうことかを考えてみます。次のような三つの前提が特長になっています。

1.効果的な成果物が得られること
何かを実現したいときに的を外さないことが最も重要ですが、プロジェクトは極力試行錯誤を避けながらゴールに到達します。
2.効率的に業務を遂行すること
最終的な成果物を得るために、最も合理的な仕事の進め方になるようにプロジェクトの業務全体を組み立てます。
3.納期とコストを約束すること
効果的な成果物と業務遂行の効率性のバランスをとりながら、所定の納期とコストを実現します。

プロジェクトという仕事の進め方の枠組みが、世界的に普及し始めたのは1950年代ごろからと言われています。プロジェクトのもつこのような特長からすれば当然の結果と言えるでしょう。

【2】思い付きで始めるプロジェクトはこれらの条件を満たさない
これらの特長は、プロジェクトを実施する立場からは前提となる「条件」と言えます。社内プロジェクトであっても、このようなプロジェクトの三つの条件が確保されなければプロジェクトの成功は期待できません。

社長の思い付きで始めるプロジェクトであっても、三つの条件を確保することは欠かすことができません。これらは、次のようにチェックすることができます。

①効果的な成果物が得られるか。そもそも、何のためにやりたいのか、目的そのものがクリアになっているだろうか。
②効率的な業務遂行ができるか。最終的な成果物が決まっていない段階では、全体としてどのような業務が必要とされるか、その把握が難しい。
③納期とコスト、プロジェクトの最終的な収益性の見通しができるか。希望する納期はあるとしても、その妥当性をどう判断するか。社内プロジェクトのコストは、プロジェクトを兼務する社内メンバーの工数が主となる。本業からどのくらいの期間を引き当てられるか、把握しにくい。

プロジェクト開始の条件をこのようにチェックすると、社内プロジェクトを思い付きで開始することはできず、やらないほうが良いことがわかります。経験の無いことには手を出さないほうが安全です。経験主義の立場からはどのようなリスクがあるかわからないことはやらない、という結論になるでしょう。

【3】わが国の経験主義
予測よりも経験を重視して行動するのは日本人の特長だと思います。科学的な思考法の無かった時代にはベストのやり方だったと思われます。
他方、経験から普遍的な理論を導き出して行動するやり方があります。このやり方は経験が無いことであっても、理論に基づいた指針によって行動することができます。このやり方が得意なのは我われ日本よりも米国のほうです。経験が無くても、とにかくチャレンジします。米国のインターネット企業であるGAFAなどはその代表例です。これらの米国企業は、それまで世の中に無かった新製品や新サービスを創出しました。

経験だけに基づき、経験したことしか信用しないことは経験主義に偏りすぎています。これでは企業の成長や発展は望めませんし、生産年齢の人口が減少するわが国においては社会全体の沈滞を招くことになります。いわゆる失われた30年は経験主義に偏りすぎた超安定経営が招いた結果だったと筆者は考えています。
しかしながら、わが国においても経験の無い新製品や新サービス創出にチャレンジしている企業は少なからず存在します。そのような企業では、社長の思い付きがきっかけになっています。

【4】思い付きをプロジェクトでやってみるとき
本連載(その3)で「プロジェクトの乱発ダメです」と書きました。その対応として、思いついたプロジェクトについて「机上検討」をお薦めしました。思い付きやヒラメキを取り入れて、そのプロジェクトの合理的な骨格を構想するお薦めでした。

本稿では思い付きだけのプロジェクトはダメですとしました。思い付きだけにせず、全体構想まで検討してみる、そしてそれは世の中に無い新製品や新サービスを創出するプロジェクトである。これなら、まさに社長のプロジェクトと言ってよいでしょう。