プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第82回

社長、それではプロジェクトは失敗します。
 (その3)プロジェクトの乱発ダメです。

前回は「いったん依頼したら、欠席裁判無しです」をお伝えしました。そもそもプロジェクトは現在の定常業務としては担当する部署が無い、あるいは担当者がいないことについて扱います。比較的かんたんな案件でしたら、社長が「頼むよ」と誰かに依頼すればそれでよいのです。ところが、複雑な案件だとそうはいきません。プロジェクトチームを編成し期間を限定して取り組むことになります。そのプロジェクトのリーダーを誰かに任せることになりますが、いったん任せたからには軽々しく辞めさせることはできません。社長が指名したのであれば、辞めさせるときは社長が丁寧に説明することが欠かせません。欠席裁判とは、不利になることを当事者への説明無しに決定することでした。
今回はプロジェクトの乱発について述べることにします。

【1】バック・トゥ・ザ・フューチャーのタイムマシン
この米国映画(1985年)は大ヒットしました。映画で登場したタイムマシンは「デロリアン」という市販のスポーツカーでした。この映画は次々と連作ができましたが、やはり第一作が最も面白かったと思います。
ところでデロリアンは実在の人物からとった名前です。ジョン・デロリアンは、米国GM社の北米乗用車・トラック部門の担当副社長だった人物です。彼が退職してGM社の内幕を語ったインタビュー記録をもとに「晴れた日にはGMが見える」が出版されました(パトリック・ライト著1980年)。筆者はこの本を読みましたが、プロジェクトについて次のような場面が描かれていました。

【2】こんな大事なことはプロジェクトでやるべきだ!
ある事業部内での会議の場面です。従業員の待遇改善か何かの議題について提案者のプレゼンが始まりました。すべてを聞かないうちに、事業部長がプレゼンをさえぎります。きわめて大事なことだからプロジェクトでやるべきだという発言です。これに会議室は一瞬で静まり返ります。誰も発言しないのです。ようやく、事業部のナンバー2が発言します。

「申し訳ないが聞いてほしい。これは6か月前に同じことを提案した。そのとき、あなたがプロジェクトでやれと指示した。今日は、そのプロジェクトチームからの報告なんだよ」

事業部長はプロジェクトを乱発するタイプだったのかもしれませんね。6か月前のことなどけろりと忘れています。なかなか辛辣な書き方です。もっとも、GMを退職した人からの情報に基づいています。少し割り引く必要はあるでしょう。

【3】プロジェクトメンバーは誰でも通常業務をかかえている
通常業務の他にプロジェクトをかかえることは、誰であれ負荷がかかります。通常業務の他にプロジェクトを二つも三つもかかえることは普通には考えられないことです。

日産ゴーン改革で後輩から聞いたことを紹介します。
この改革では生産拠点の閉鎖などを含め大きなプロジェクトが数多く進行しました。計画のとき、プロジェクトメンバー表を見て「プロジェクトのメンバーは専任か」とゴーンCOOから質問があり「すべて現在の業務と兼務」と説明したそうです。それが常識でしたから当たり前の回答でしたが、COOは「それでできるのか」と疑問いっぱいで納得しなかった。そのため、修正提案として持ち時間に対してプロジェクトにどのくらいの時間を割くかを「リーダーは50%、メンバーは20%」などと明示したそうです。通常業務とプロジェクトを兼務するという常識は彼に は無かったことがわかります。

【4】資源(ヒト)の制約条件が乱発を許さない
企業内プロジェクトの場合、ヒトという資源の制約がきわめて重要になります。とくにプロジェクトリーダークラスの人材はどの企業でも限られますし、次期リーダー育成のために教育的観点からの人選も必要になります。
そこで経営者としては、リーダーや次期リーダー候補者などに向けてプロジェクト参加のスケジュールを管理していくことが必要になります。兼務するプロジェクトが重ならないようにすることは、ヒト資源を浪費しないことにもつながります。このような資源管理の前に、経営者の方々にぜひやっていただきたいことがあります。

【5】何をやりたいのか 経営者はまず机上検討を
そもそもプロジェクトでやりたいことは何か、これはつねに最重要課題になります。「とにかくまずやってみよう」はプロジェクトに限らず決してやってはいけないスタイルです。焦点が絞られていない活動は「労多くして益少なし」に直結します。「まずやってみよう」は建設的な響きがありますが、惑わされないように注意が必要です。
プロジェクトであれ、何であれ経営者にやっていただきたいのは事前にやる机上の検討です。シミュレーションと考えてもよいでしょう。机上の空論という言葉がありますが、経営者の検討は空論にはなりえません。思い付きやヒラメキを取り入れてもよいと思いますが、基本は合理的な骨格を事前に構想できることが欠かせません。
細部は別にして、プロジェクトの大まかな骨格を机上検討できないときはしばらく保留したほうがよいでしょう。