虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第21回:ベートーベンはコーヒー豆をいつも数えていた(その2)

計量カップで掬っても約60粒です

 私が使っているコーヒーの計量カップで、実際に豆の数を数えたことが何度もあります。半分にかけたものを除いて摺り切り一杯に入れてみると、やはり約60粒です。カップの容量は、内寸28(底径)×38(口径)×24(高さ)の円錐状で、計算しますと20ccでした。重さは8から9gでした(残念なことに電子秤の最小メモリが1gでした)。
 久しぶりに円錐の体積を計算する機会ができましたが、当初は必死で計算式を思い出そうとしていました。でも思い出すことは無理でした。結局正確さを期して、結局インターネットから計算式を探し、数値を入力すると瞬間的に計算をしてくれました。
 最近出回っている真空パックの1人前のコーヒーは、既に粉に挽いたものですが、7から10gになっています。少しコストは高いですが、味わいの良さと便利さで最近この真空パックになったコーヒーを使っています。
 この計量カップに摺り切り一杯のコーヒー豆を入れてみて、とても60粒も豆が入るとは思えません。実はセミナ―で、クイズとして使っています。この計量カップに何粒入っているかをと訊ねると、ほとんどの人は20から30粒だといいます。コーヒー豆が、ラグビーのボールの形状と勘違いしています。実はそれを半分に割ったいわば、アワビのような形状になっています。ですから見かけよりも倍の粒が入っているのです。コーヒー豆を、大豆のように球体だという先入観で見てしまうからだと思います。
 ベートーベンは、自分で数えた豆を自分でミルして飲んでいたのです。ドイツの田舎のホテル兼レストランに行くと、時折ベートーベン・ミルが飾りとして置いてあることがあります。当時はトルコ・ミルと呼んでいたようですが、今になってはベートーベン・ミルの名前になってしまいました。15世紀頃にトルコ経由でコーヒーが入ってきて、ベートーベンがいた18世紀ではちょっと高級な飲み物になっていたようです。ベートーベンがミルを回しながら、曲の構想を考えていた情景が目に浮かんできます。
 このようにベートーベンは、見るからにくそ真面目というか几帳面な性格であったことが伺えます。彼が散歩する時間も非常に正確で、その散歩の時間に合わせて近所の人が時計をセットしていたという逸話もあるほどです。でも今では欧州の鉄道はまともなのがスイスくらいで、あとはいずれもいい加減であり、遅れは当たり前になっています。欧州で列車を3本乗継しようと事前に時刻表で計画しますが、3本目には遅れてしまうのが実情です。この点は、昔のベートーベンを見習って欲しいと思います。ちなみにベートーベンは、数多くの引っ越しをしていたそうですが、実は整理整頓が苦手だったそうで、部屋を片付けられなくなったために引っ越したみたいです。
 連載記事の執筆の際にネタを考える時には、必ず2Bの柔らかい鉛筆を3本用意してカッターで削ります。鉛筆削りを使えば一瞬で綺麗に仕上がりますが、丁寧にカッターで削ることで神経を集中しています。これを儀式と考えています。一見ムダのようでも、精神統一には必要なことなのです。


数えないで正確に数える工夫を考えてみましょう

 数えるという一見単純な作業ですが、単純さゆえに数え間違いも良く経験することです。その単純作業を正確に、しかも素早くできる方法を生産現場で必要になります。そこで数えないで数えるというちょっとした考え方をしてみましょう。
 江戸時代の銭勘定をする両替商などが、使っていた「銭枡」という道具があります。銭の大きさに合わせて碁盤目のように小さな壁を設けて、さらに銭の厚さの深さの溝(升目)を作ります。そこに銭を一掴み載せて、前後左右に揺すっていくとその枡目に1枚ずつ入ります。余分なものは払落せば、必要な枚数がすべて揃うことになります。
 これなら数えなくても必要な数が正確にし、しかも素早くできます。しかも見た目にもパッと見てパッとわかります。コーヒー豆用に少し深めに溝を作れば、60粒が数えることができます。計量カップなら一掬いです。数ではなく、重量でも必要な豆が計量できます。一つの方法や見方だけではなく、目的が合えば色々な方法があることをいつも頭に入れて、虫の眼、魚の眼、鳥の眼の見方をしたいものです。