先回、スイスのビジネススクールのIMDが発表した2022年世界デジタル競争ランキングで日本は29位と低位にランクされたとお伝えしました。今回はそのランキング順位を上げるために必要な行動について私の考えをお伝えいたします。
ランキングをあげるためにはいろいろな方法があると思いますが、最下位になった3項目に着目して、それを製造業ではどのようにカイゼンするかを考えたいと思います。3項目とは、「国際経験」(知識)と、「ビッグデータ活用・分析」、「ビジネス上の俊敏性(Business Agility)」(未来への対応)です。63もの国や地域の中で最下位というその3項目は、世の中一般の動きからかけ離れた状況であることもあり得ると思います。これまでの常識にとらわれず、あるべき姿を設定してカイゼンに臨むことが必要です。国全体の話ですが、個々の会社での対応として考えてみます。
これらのことを考える前提ですが、この3項目はデジタル競争力にとどまらずカイゼンにおいても重要な要素になります。そこで、すべての会社でこの3項目の活用を考え実践していただきたいと思います。昔の日本は世界初といったことを次々と打ち立てました。その時後進国であった、台湾、韓国そして中国は日本の後を追い、現在は日本を抜いて上位にいます。このままだと、日本はこれらの国の下請けの立場になってしまいます。日本の我々は、現在の仕事を前提とせずに新たなビジネスモデルを策定することが求められます。現在の「うさぎと亀」状態からの脱出です。例えば現在の業態が国内中心で昔からある典型的なアナログ仕事であっても、国際経験やビッグデータ、あるいは俊敏性を取り入れてデジタル競争力とカイゼン力を高め大きな変化を起こしていただきたいのです。
まず「国際経験」(知識)ですが、日本の工場での仕事ぶりを見ると、確かにこの面での遅れは大きいと実感します。欧米の様に人材の流動性が高くないので、次の仕事を得るために新しい技術を身に付けるといった機会が少なく、知識を習得しなければならないという切迫感は非常に薄いです。そして多くの工場は仕事に追われており、落ち着いて勉強をする時間がないのが普通です。しかしこの項目で求められていることは、現在世界がどのように動いているかを知って、その上で世界水準を満足する経営を目指すことであり、後回しにすることはできないと思います。例えば地球環境保護の観点から資源の再利用や二酸化炭素排出抑制などは待ったなしという時代になりつつあります。国際情勢の正確な把握とそれに基づく経営計画の策定と実行が求められる時代になっているということであり、できることを明確にして素早く実行を開始することです。
2番目の「ビッグデータ活用・分析」(未来への対応)についてですが、日本はかなり苦戦するかもしれないと思っています。日本語そのものが英語と較べると非常に表現が曖昧で、状況を踏まえて察するのが大人...、という感じがある言語です。Yes,Noから始まりまず結論ありき、そして主語が必ずあるので責任者も明快という英語に対し、日本語は正反対です。あまりキチキチ話すと「理屈っぽい!」と言われることがある我々日本人は、一般的にデータ活用が苦手な国民なのではないかと思います(明らかに暴言ですね)。実は私はデータをきちんと分析してロジカルにものごとを構成するのが苦手です。まずは実行してその結果を見てから次のステップを考えるといったカイゼンでよく使うやり方が好きなのです。しかしこれからはAIなどの活用を前提に、きちんとデータ残してそれを上手に活用・分析し、より大きな成果につなげるカイゼンへとステップアップしなければなりません。
最後に「ビジネス上の俊敏性(Business Agility)」(未来への対応)に関しては、将来の会社の目指す姿を視野に入れて、その実現に向けての取り組みをできるところからすぐに始めることではないでしょうか。その時々に好調な売れ行きの商品を製造販売することを繰り返すのではなく、独自の技術や管理力などの強みを生かして、マーケットが望む製品を自分たちの工夫を織り込んで作ることを目指します。そのためにはユーザーに関する必要な情報をいち早く入手し感度よくそれを吸収し実行する速さが必要です。
62もの競争相手に対して何と最下位! この3項目には本気で取り組んでいなかった企業が多かったのだと思います。しかしこれは一旦取り組みを始めれば、ものすごく良くなる切り口の発見でもあります。もちろん簡単ではないでしょう。しかし、このままずるずると後退を続けるわけにはいきません。できない理由でなく、やる方法を考えましょう!現実に真摯に向き合って、日本の製造業のデジタル競争力を向上させましょう!
これまで28回に渡って、「モノづくりの現場探求」と題して様々なトピックを選んで私の考えをお伝えして参りましたが、このシリーズは今回で終了いたします。次回からは新しく私が現場で行っているカイゼン活動からお役に立つ情報をお伝えいたします。どうぞよろしくお願いいたします。