モノづくりの現場探求 第二十七回

日本のデジタル競争力 1

スイスの有名ビジネススクールのIMDから2022年のデジタル競争力ランキングが発表になりました。今年の日本の順位は63の国・地域中29位でこれまでで最低のランクに位置付けられました。2018年の22位から連続して順位を下げており、今年こそは挽回してほしいと願っていましたが、挽回どころか更に悪くなるという残念な結果になりました。

今回は、日本のデジタル競争力について、「日本はナゼ低い順位に留まっているのか?」を私なりに分析し、そして次回に「順位を上げるためにはどうするべきか?」について考えを述べたいと思います。

このランキングは、デジタル技術の利活用能力を、(1)知識(Knowledge)、(2)技術(Technology)、(3)未来への対応(Future Readiness)の3つの大項目とその下の54の小項目で評価をするもので、総合ランキング上位の5カ国は、デンマーク、米国、スウェーデン、シンガポール、スイスです。東アジアの国・地域をみると、韓国が8位、台湾が11位、中国が17位となっており、日本の遅れが目立ちます。内訳を見ると、日本は「国際経験」(知識)と、「ビッグデータ活用・分析」「ビジネス上の俊敏性(Business Agility)」(未来への対応)の3項目で調査対象国・地域の中で最下位となっています。

順位を下げている原因として最も大きいのは、63もの国と地域が対象になっている評価の中に最下位の項目が3点もあるということです。最下位ということは、どこをどうカイゼンすれば良くなるというレベルではなく、この項目に関して日本は評価の対象になる要素すらないということかもしれません。そうだとすると日本は世界の流れから取り残されているということになり、これまでの仕事のやり方を前提としないで、根本から考え直すことを求められているということです。この項目を製造業において考えてみます。

まず「国際経験」(知識)ですが、日本は島国であり地続きで外国との交流ができないので、今回のコロナにより遅れが出たということは有り得ます。しかし11位の台湾も同じ条件であり、それを理由にすることはできません。進んで世界の情報を取っていないと判断されたということだと考えます。特に最近のサプライチェーンが機能しない状況の中で、世界がどう動いているかの情報などを自らの努力で取れているかなどが問題なのではないかと思います。 2番目の「ビッグデータ活用・分析」(未来への対応)については、日本のカイゼン活動の悪い面が出ているかもしれません。日本では問題が起きたときに現場監督者や技術者が即座に現場に駆けつけて対応をします。それはとても素晴らしいことなのですが、惜しいことにその問題の対応で終わってしまい、その内容を今後のカイゼンに活用・分析できるようデータにして残しているかというと不十分であると思います。技術者の知人から聞いたのですが、彼は以前ある海外工場の視察に行った時、現地の技術者は問題発生時に現場に行って対応するより情報をコンピューターにインプットすることに力を入れていて、対応を間違っていると思ったそうです。しかしその批判した工場が今ではDX化で世界レベルの評価を受けていることを知り驚いたと言っていました。AIの登場で過去のデータの畜積が大きな力を持つようになったことで評価が変わったということです。これからは実行したカイゼンをデータに残し、それを活用・分析して、その効果を何倍にも広げていく新しい使い方を開発することが求められています。

最後に「ビジネス上の俊敏性(Business Agility)」(未来への対応)に関しては、現在の日本のビジネスの弱さが露呈していると思います。自動車の排気ガス規制(マスキー法、1970年)を世界で最初にクリアしたホンダ、ウォークマンを生み出したソニーなど以前の日本は速さで突出していました。トヨタ生産システムもリードタイムへの効果が海外では評価されています。2018年10月に出た日経ビジネスは「失敗を力に変える」という特集でしたが、その時に既に「昔の日本は何をするか分からず怖かったが、今は何もしないので恐くない」といった主旨の海外の日本に対する見方が出ていました。今の日本は「石橋を叩きに叩いてそろりと渡る」印象だと先日の日経朝刊のコラムにもありましたが、そうかもしれません。

残念ながらこれらの評価は日本が「うさぎと亀」状態にある現状を示しており、変えていく必要があります。

次回は、これらのことをどのようにカイゼンしていくかについて私の考えをお伝えいたします。