プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第129回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代のプロジェクト(その13)

前回は、統廃合される中小企業のイメージとよく似ているものとして、小学4年でその後の人生の進路が決まるドイツの教育事情を紹介しました。10歳と言えば、その子の将来についての方向すら見えない年齢です。そのような時期に学校の成績だけでばっさりと進路を決める。その決め方がまさにドイツらしい合理性一辺倒のやり方でした。何が合理的かと言うと、要するにおカネでした。日本のように、子どもの将来を小学校入学から高校卒業まで12年間も時間をかけるのはムダである。小学4年、つまり小学校入学からの4年間で判定すれば選別できる、という割り切ったやり方でした。わが国にはそのような「合理的なやり方」はありません。中小企業の中には極小のミニ企業もありますが、それもわが国の文化のひとつであることを述べました。
わが国にはドイツのような極端な効率一辺倒はありませんが、何を考えているのかわからないレベルの低い例もあります。今回は、ものごとの判断根拠とその説明について述べます。

【1】女子受験者のみ入試で一律減点した医科大学
これは「女性のみ一律減点の衝撃」として、当時、大きなニュースになりました(2018.08.05 YAHOOニュース)。東京医科大学の医学部医学科の一般入試で、大学が女子受験者の得点を一律に減点し、女子の合格者数を抑えていたことが明らかになりました。得点順に合格させると女子の合格者数が多くなり過ぎるからという理由だったそうですが、それを当事者である受験生には隠していたことがさらに問題を大きくしました。我われの「常識」としては、男女に関わらず入試の得点の順に合格が決まると思っていたからです。

ドイツの教育制度は小学4年生で将来の進路が決まる、これは子どもの将来にとって早過ぎる判定ではないかと筆者は批判的に書きました。一連のプロセスが公開された周知の事実になっているから誰でも自由にコメントできるのです。

【2】何を公開すべきか その常識が欠落している大学トップ層
当大学の意向としては何としても女子合格者数を減らしたかったようです。その事情について、本稿では紙面の関係で記述を省きます。それはともかくとして、大学としてその意向を実現するなら「定員100名、内訳として女子50名、男子50名とする。それぞれの定員内で得点順に合格とする」などと公開することもできたでしょう。もちろん、このやり方の是非についても様ざまな反響があったことでしょう。それでも、今回のように大学に対する信頼を大きく損ねる事態にはならなかったと思われます。信頼を失い信用を失墜させただけでなく、文科省はこの不祥事に対して私学交付金2年間の停止を決めました。大学トップ層の知的レベルの低さ、と常識の欠落が大きな災禍を招きました。

【3】自分の忖度を部下につぶやく上司
筆者は工場勤務から本社への勤務に異動したことがありました。工場では鋳造部品の生産技術を担当していましたが、本社の異動先では設備など購入設備の審査を担当する部署でした。購入設備の他に廃却設備の審査もありました。まだ使えそうな設備をかんたんに廃却することを牽制する意味もありましたが、業務のほとんどは新規に購入する設備の仕様や価格の妥当性の審査でした。異動が公表されたのち、工場のある部長に呼ばれました。工場で廃却する設備がありその申請についての説明でした。「この設備は、現在の副社長が工場在籍時代に購入されたものだ。愛着があるからかんたんに廃却の申請が承認されるとは思えない。キミの貧弱な説明では無理だろう」、何を言うかと内心で怒りましたがそのまま聞くだけにしておきました。

異動後、確かにその申請書が筆者のもとに届きました。老朽化したので新規設備に更新する予定であり、その設備は既に手配済みと書いてありました。設備廃却についての決裁基準は老朽化した後の時価ではなく、購入時の価格になります。高額な設備だったので内規では工場内で承認できず、本社へ回付されました。筆者の「貧弱な説明」をつけて副社長へ申請書は回付されました。さて、読者の皆さん、この申請はどうなったと思われますか。却下?承認?結果は普通にすんなりと承認されました。副社長に記憶や愛着があったかどうかはわかりません。あったとしてもそれで時間を使うつもりはさらさら無かったと思います。関係者のムダな忖度の余地をなくすためにも、内規(社内のルール)があります。部長でありながら、内規は何のためにあるのか全くご存じなかったようです。

【4】異文化にもピタリと通じる説明
作家の曽野綾子さんの著書で読んだことを紹介します。中東イスラエルを訪問されたときのことです。入国審査で携行品に梅干のビン詰めがあり、これは何だと質問されたそうです。日本人には定番の食品です。我われ日本人なら長期海外旅行のお供の品として何の不思議もありません。しかし、外国人、とくに通関の審査員には、いくら堪能な現地語を駆使したとしてもまず理解できないことでしょう。ここで彼女はたんに食品というだけで、何の問題も無くパスしたと書かれていました。「これは、私の宗教上の理由から毎日必要とする食品である」、イスラエルはご存じのようにユダヤ教の国です。梅干そのものの組成や製法は一切説明せず、宗教との関係性のみを訴求されています。即興で、その場にピタリと通じる説明に感動しました。