モノづくりの現場探求 第十六回

現場における“問題”とは? 2 ~発生型と向上型~

前回、向上型問題は経営に大きな貢献をすると申しましたが、発生型問題のように直接的ではないので、その存在が見えにくいのです。今回は、私が経験した中から2つの事例をご紹介して、その性格を明らかにしたいと思います。

最初の事例は化粧品を作っているA社の組み立てコンベアラインでの話です。コンベア上を流れている箱に入った商品を、作業担当者が次の印字工程のために手で倒すという作業がありました。単純ではありますが面倒な仕事なので、現場の人が設備担当者に自動で倒れるような仕掛けを作ってほしいと要望しました。すると担当者から、経費をかけて自動化するのだから、作業がなくなって空いた時間に何をするのかを決めていなければ対応できないとの返事がありました。現場の人たちは少しがっかりしましたが、確かにその通りなので、皆で話し合いました。その結果、前工程でやっていた仕事を自工程に取り込むと、トータルで生産性が上がることが分かり、実行することに決めました。それだけでなく、話し合っているうちに、ただ箱を倒すだけなら自分たちでできる簡単な仕掛けで倒れるようにできないかという意見が出て実行してみたところ、できてしまいました。面倒くさいという気持ちから、話し合いで全く経費をかけずに生産性向上を生み出しました。これは潜在していた向上型問題を解決した事例といえるでしょう。

2つ目の事例は電気部品を作っているB社の組み立て現場での話です。組み立てを担当しているベテランのCさんはとても優秀で、会社から大きな信頼を置かれていました。ただCさんはとても口うるさいと言われていて、直属の上司のDさんは少し引き気味に接していました。Cさんはどうしたらこの仕事がもっと楽にできるかを真剣に考えている人で、Dさんに対して「設計はなんでこんな作りにくい設計をするんでしょう?どうしてクレームをつけないんですか!」といった言い方をするのですが、Dさんはどうしたらいいか分からず対応できなかったのです。当時、この現場は生産が大幅に遅れているという発生型問題を抱えていました。Cさんは遅れを取り戻すためには作り易くしてほしいので設計カイゼンを要求しました。CさんはDさんにもう少し要望を分かり易く話せればよかったのかもしれません。一方監督者のDさんはCさんにはしゃべっていないで生産に時間を使ってほしいと望んでいました。Dさんももっと聞く耳を持つべきであったかもしれません。しかし発生型問題が顕在化しており、両者ともゆとりを持つことができなかったのです。

ある日私はBさんとゆっくり話をする機会を得ました。いつもは短い時間しか話せないのですがじっくり話せるとあって、Bさんはいつもより落ち着いた感じで、何を問題だと思っているか、そして製品の構造がどうなれば良いのか、など絵を描きながら説明してくれました。それは非常に分かり易く、もし適用されて設計が変われば、大きなコスト削減と品質向上になることが明らかでした。そこで私は設計部門に連絡を取り、Bさんが設計者にプレゼンする機会を作りました。結果は上々で、Bさんのアイデアのほとんどが採用され、大きな成果に結びつきました。対応した設計者は、なぜもっと早く伝えてくれなかったのか…という非常に好意的な反応をしました。その結果、Cさんの向上型問題が解決され、その上でDさんの発生型問題も解決したのです。

2例とも向上型問題が解決した事例ですが、両方の事例にせっかくのいいアイデアが実現に向かわないで止まってしまっていた時間があります。実現しないまま埋もれ続いている向上型問題はこの10倍あるいはそれ以上あることでしょう。

それぞれの担当者は忙しいので、このような流れになってしまうことは理解できます。私は日常の仕事は手分けをするが、カイゼンの時は皆でやるのがいいと思っています。単に人数が集まるだけでなく、いろいろな人が持つ多様性に富んだアイデアが答を導き出すのです。先回「みんなでやればすぐできることが、一部門だけだといつもまでたってもできないことは多いのです」と書きましたが、ここに解決のヒントがあるように思います。

次回はこの解決のための事例をご紹介して向上型問題の解決スピードを上げたいと思います。