モノづくりの現場探求 第六回

原価計算について2 ~いくつ作るのが正しいか?の新しい答え~

先回は原価計算の考え方をテーマにして、つくり過ぎのムダと在庫のムダについての事例をご紹介いたしました。8,000個売れる予想のモノに対して毎回10,000個生産して2,000個返却されるというのが普通であったモノづくりを見直して、8,500個の生産に変えて返却数を減らすようにした結果、不足になっての追加生産もあまり発生しなかったので、トータルで利益が増えたというお話でした。私はこれまでこのようにチョビチョビギリギリに作ることによって、在庫やそれに関わって発生するムダをなくす改善を実行してきました。いわゆるムダ取りです。

ところが先日、私のこの話を聞いたマーケターの方からこういう考え方もありますよ、と教えてもらいました。

それはもし8000個売れそうだということであれば敢えて7000個しか作らない。そして早めに売り切って完売御礼を出してすぐに追加生産をする。すると柿内さんの考えだとその後1000個が売れる計算になると思いますが、完売御礼が出た後、買いそびれたと思った人が追加販売分を積極的に買ってくれるので、3000個くらい売れるのですというお話でした。

なるほどマーケティングというのはそういうことなのだと感心しました。私はマーケティングのことをきちんと勉強したことはないのですが、この話には納得しました。私も売り切れたものが再販売された時につい買ってしまうことがあるからです。これは心理学でもあるのかなと思いました。
私たち製造業は高度成長時代の作れば売れる時代から始まって、上手な作り方をすればモノは売れて利益が上がるという環境に長い間いました。その結果、モノづくりの範疇でのカイゼンは進めましたが、それ以外の分野のことには手を伸ばしてこなかったかもしれません。コストを下げる手段の一つとして、「もっと売る」方法についてはカイゼンのテーマとして考えていなかったかもしれません。もっと売ることができれば1個の製品を生産するのにかかる固定費負担が減るのでコストが下がり利益が増えますね。先回登場した工場長の原価計算は実際には売れていないので成立しませんでしたが、このようなやり方も加えれば正しい計算になったということです!

これからは時代が大きく変わります。マーケットインからユーザインに、アナログからデジタルへと変化します。このような時代、私たちが知らないことを抱えたまま前に進むのは危険です。何を知らないかは自分ではなかなか分かりません。しかし例えば製造業である私たちも、これからはマーケティングの勉強する必要が出てきているとも思います。これまでは注文が来たものをどのように作るかが主な仕事でしたが、これからは注文が来るにはどうしたらいいかのような工夫をするのも製造業の仕事です。日本改善プロジェクトにはいろいろなチャレンジをしている会員の方がいらっしゃいます。このような多様性を活用してさらなる新しい仕事のやり方を開発していきましょう。