モノづくりの現場探求 第五回

原価計算について ~原価計算は本当の原価といえるか?~

モノづくりのカイゼンの目的はコストダウンが多いと思います。しかし本当にコストが下がって会社に貢献したかのチェックを間違うと大変なことが起きてしまいます。
駅のキオスクなどで売っているアニメの主人公などの根付を作っている会社の指導をした時の話です。倉庫に行くと、売れ残って返品された商品がたくさんありました。あまりに多いので、なぜこんなに返品されるのですかと聞くと、古いものは売り切るのではなく回収して、次々に新しいものを出して売っているからだということでした。次にどのくらいの割合で返品が来るのですかと聞くと、すべてを多めに作るのでほとんどのモノから返品が来るとのことでした。最後にもし売り切れた場合はどうするのですかと質問すると、その場合は追加分を再度生産するので、売り損じは発生していませんということでした。そうであれば、今より少なめに作れば多少の追加生産は出ても、結果として返品や廃却が大幅に減り利益が増えると思い、生産ロットを小さくする提案をしました。社長は返却品とそれらの廃却の多さを気にしていたので、生産ロットを小さくすることをその場で決定し実行しました。

3か月後に伺うと、生産ロットを小さくした結果、返品の量が確実に減ったということと、追加生産は増えなかったとの報告を受けました。私が「よかったですね」と言うと、社長は頷いてくれましたが、工場長からは「よくありません」というお返事が返ってきました。理由を伺うと、生産量が減ったので製品一個に按分される金型費用が上がり、製品コストが上がってしまったからとのことでした。しかしよく考えると、金型は固定費ですから、いくつ作ろうが金型費は一定です。もし同じ商品が同じ数だけ売れたとすると、多く作って返却・廃棄される数が多い方より、少な目に作って返却・廃棄される数が少ない方が、総コストが低いのは明らかです。工場長が言うコストの上昇は製品一個当たりの計算上のコストであり、キャッシュフローにおいては返品が減少し大いに儲かったのです。工場長の計算は作った製品がすべて売れたという前提なので、本当は返品が来た時点で実際に売れた数で再計算しなければいけないはずなのですが、それをしないのであたかもたくさん作ると安くなるような結果が出てしまったということです。工場長はそれまではコストを下げようと多めの生産計画を立てていましたが、実はそれがコストを上げていたのです。しかしこのようなコストに対する考え方の違いはよくあります。会社経営を考えると、大切なのは計算上のコストではなく実際のキャッシュの動きです。この会社では返却が減り、保管の場所も減り、廃却することによる無駄が減っていますから明らかにコストは下がっています。

この例はコスト計算でしたが、これ以外にも設備稼働率や能率計算などの数字上の判断と実際に起きることに違いがあるということはあるものです。改めて現場の管理が経営カイゼンとリンクしているかを見直してみてはいかがでしょうか。