脱力・カイゼントーク 第5回

私事ですが、夏休みに何をして過ごしたかについてお話しいたします。今年、私は特に旅行に出かけることもなく、ほとんどの時間を自宅で読書をして過ごしました。

読んだ本は、以前にこの「脱力・カイゼントーク2」でご紹介しましたが、日産自動車を退職してカイゼンコンサルタントになった直後に、大慌てで勉強した新郷重夫先生の分厚い難解な著作です。『ノン・ストック生産方式への展開』、『源流検査とポカヨケ・システム』など数冊を読み返しました。

ほぼ30年ぶりに開いた本はいかにも古く、ページは黄ばんでいました。ところが30年前に私がマーカーでアンダーラインしたところは、かなり薄くなってはおりましたがそのまま残っていました。

私は昔から本を読むときは、線を引きながら読む習慣があり、今回も昔と同様にマーカーを手に取りながら読み進めました。すると面白いことに今回は、以前にマーカーで線を引いたところには重要性が感じられず、代わりに別の部分にばかり線を引いていました。

何が違うかというと、30年前は具体的なカイゼン事例に注目して線を引いていましたが、今回はカイゼンやモノづくりの根本的な考え方の部分に集中的に線を引いたのです。

この違いは何だろう、と考えてみました。30年前の私は、新米コンサルタントとして具体的なカイゼンの方法を1つでも多く知ることが必要だと思い込んでおり、考え方まで学ぶ余裕がありませんでした。実際にはたくさんの具体的な事例を学びましたが、企業ごとに異なるニーズに対応するには至らず、すべてが使えるとは限りませんでした。本当に重要なのは方法よりも考え方であったのです。今回マーカー線の引き方の違いから、30年の歳月を経て多くの知識や洞察が蓄積されていることに改めて気づき、とても嬉しく思いました。

さて、そこで1つ、気になることが出てきました。デジタル化やDX化の要求が急速に高まる中、多くの企業が急いでこれらの取り組みを始めていますが、私の30年前のような状況に陥っていないかという心配です。まずは形にしなければと焦ってしまい、あまり議論をしないままで外部の専門会社に作業を委託したり、できるところから無計画にデジタル設備を導入したりすると、本来の狙い通りの成果に至らない恐れがあります。むしろ、経営者にとって本当に必要な経営情報とは何か、優先すべき現場のデジタル化はどの部分であるかといった基本的な考え方や現実的な判断を大切にすることが重要です。

カイゼンを学ぶに当たって、実例を頭に入れることも有効な方法ですが、それ以上にナゼこのようなカイゼンが必要なのかといった考え方を理解することが更に重要です。これによってより高度なカイゼンに着手できるようになるということを今は断言できます。同じ本を読んでも30年前と今とでは読み方が変わっていたことから、自身の成長も具体的に実感することができました。今年の夏休みは私にとって非常に実りの多いものとなりました。