プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第84回

社長、それではプロジェクトは失敗します。
 (その5)計画どおりにきちんと終わらせる。

前回は番外編ふうに、社長の仕事の範囲は広くて深いのだから、半年前のことでも半月前のことでも何を忘れても大丈夫と書きました。経営者に限らず誰でも重要な関心事は、きっかけがあればすべてが昨日のことのように蘇ってくるものです。逆に些細なことは忘れるほうが、精神衛生上も良いことではないでしょうか。
今回は、プロジェクトをどのように終わらせるかについてです。プロジェクトは始めることはかんたんでも終わらせることは難しい、これについて述べることにします。

【1】PMは理想的な仕事の進め方か
プロジェクトマネジメント(PM)のような仕事の進め方を基本にしたいという企業は、よく見聞きします。筆者がPM業界に参加したのは2000年ごろでした。当時はPMそのものがちょっとしたブームの様相もありました。PMは、目的(最終的な成果物)を明らかにしたうえで投入資源(ヒト、モノ、カネ)を決めて納期を約束する仕組みになっています。初めて聞くと、こんなに明快な仕事の進め方は他に無いと思われる方は多いでしょう。これには、プロジェクトをうまく運営できれば、という大きな前提がついています。このことはしばしば忘れがちになります。例えば、次のような事例を紹介します。

【2】プロジェクトがどんどん増えていく
10数年前のことになります。ある企業と半年ほどおつき合いしました。その企業内ではいろいろなプロジェクトが進行していました。プロジェクトメンバーの皆さまとおつき合いしているうちにホンネを聞くことができました。方針としてプロジェクトを積極的に立ち上げる傾向があるとのこと、それで二つ以上のプロジェクトメンバーになっている人も少なくない(もちろん、定常業務との兼務です)。関係する会議が多いので困っているが、もっと困ることは手離れが悪い。つまり、プロジェクト終了がはっきりしないのだそうです。プロジェクトは新しく立ち上がるが、終了が明確に宣言されないのでプロジェクトがどんどん増えていく・・。困ったことだと嘆いておられました。その後、企業方針が変り、こういう状況は無くなったと聞きました。

この企業では、そもそもどういう目的でプロジェクトを立ち上げたのか、それがあいまいだったのかもしれません。プロジェクトを立ち上げるとき目的を明確にすることは、同時にプロジェクトの終了を明確にすることでもあります。それを次に説明します。

【3】成功基準を決める
プロジェクト完了時に得られるものを最終成果物(以下、成果物)と言います。成果物は、プロジェクトの目的についてその達成レベル(成功基準)をどう設定するかで異なってきます。

図 目的と成功基準で成果物が決まる


事例として、建屋内に3本ある既設組立ラインを4本に増設するプロジェクトを取り上げます(連載21回などで既出の事例です)。建屋の面積は増やせないので、ラインの短縮化が必要になります。短縮化によってラインの生産能力(ここでは稼働率など)は、現状なみに維持することを前提とします。もちろん、短縮化と同時に稼働率の向上を狙うこともできます。
このようなときに「成功基準」として稼働率を設定します。現状維持とすれば、成功基準として現状並みのレベル(稼働率70%)を設定します。先に述べたように、短縮化の機会に稼働率の向上を狙うとすると、成功基準のレベルを上げることになります。例えば、稼働率75%などと設定します。この場合、プロジェクトの成功はその分だけ難しくなります。

このような成功基準(指標)を計画時点で決めておきます。そうすると、指標をクリアすればプロジェクトは問題なく終了させることができます。従って、成果物をプロジェクトチームから担当部署へスムーズに移管しチームを解散することができます。

計画したプロジェクト期間内に、指標をクリアできない場合もありえます。このとき、指標をクリアするまでエンドレスでプロジェクト期間を延長することはあまり現実的ではないと考えます。プロジェクトの延長期間を限定して対応することがお薦めです。例えば、延長期間として仮に1ヶ月を計画時点で事前に設定しておきます。このくらいの追加期間があれば何とか仕上げられるという想定に基づいています。この期間、チームは活動を継続することになります。この期間が経過したら成果物を担当部署へ移管し、プロジェクトチームは解散します。このような対応を事前に決めておくことは、プロジェクトの移管先である担当部署の有形無形の協力を期待することもできます。
いずれにせよ、計画時点であらかじめ設定しておくことがこのルールのカギになります。

【4】決め手は組織の規律
プロジェクトがどんどん増えていく事例を紹介しました。プロジェクトを計画どおりにきちんと終わらせるために、プロジェクトのルール(規則)として成功基準があることを説明しました。成功基準がうまく機能するための前提として欠かせないものは、組織の規律です(規律とは、5S活動の5番目の躾のことです)。規律は組織や集団における規則です。決めたことは全員がしっかり守ることを指しています。
プロジェクトマネジメントの多種多様な規則を整備することよりも、組織にとって重要なものを厳選しそれをしっかり守ること(規律)のほうがはるかに重要となる。改めて確認しておきたいことです。