プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第83回

社長、それではプロジェクトは失敗します。
 (その4)半年前のこと、忘れても大丈夫です。

前回はプロジェクトの乱発ダメですと書きました。米国自動車メーカービッグ3のひとつであるGMの内幕を暴露して話題になった本からその一部を紹介しました。それは、ある事業部でのプロジェクトについてのお粗末な取り扱いでした。この本ではGMのトップは自動車ビジネスについて何もわかっていない人たちばかりだとこき下ろしていました。ですから、事業部長が自ら指示したプロジェクトをけろりと忘れていたことなどは取るに足りないことだったのかもしれません。いずれにせよ、この本はGMを退職した人が批判的に書いたものです。割り引いて考える必要があるでしょう。
今回は、この本に書いてあったことをきっかけにして番外編ふうにお伝えします。半年前でも半月前でも何を忘れても大丈夫、それよりも社長にお願いしたいことはこれですという筆者の思いを書きました。

【1】社長の仕事の範囲は広い
前回はプロジェクトの乱発について述べました。別に乱発しなくても、プロジェクトはいつでもいくつかは同時に進行しているはずです。プロジェクト立ち上げのいきさつ、誰をプロジェクトリーダーに指名したか、プロジェクトへの期待などそれぞれに固有の事情があります。またプロジェクト活動は日々進行していますので、良いことも悪いことも様ざまな情報が次々と生み出されます。社長の仕事の範囲は広くて深いのです。プロジェクトについてその情報すべてをフォローしきれるものではありません。

筆者としてはこのようにプロジェクト発足から進行中などを含めすべての情報を社長が把握する必要は無いと考えています。なぜなら、プロジェクトの当事者から何か重要な情報がもたらされたら、社長としてはすぐにこれらの全体像が蘇ってくるはずですから。

前回、プロジェクトで何をやりたいかのためには「まず机上の検討を」と述べました。自ら机上検討したプロジェクトは、何かあると必ずその思いやそのときの情況が浮かび上がってきます。

GMについての本で描かれていたボスはかねてから良い行いが足りなかったのでしょう。それで辛らつな書き方をされたのだと思います。わが国では良い行いのボス(社長)は多数存在します。プロジェクトに関してその一例を紹介します。

【2】プロジェクトリーダーを即決する
商品開発のプロジェクトはそのプロジェクトだけに専念できるように、必ずリーダーを専任する必要があります。会社としてもやったことが無い場合はとくにその必要があります。これは商品開発に限りません。誰もやったことがない難しいことを他の仕事も掛け持ちしながらやると、まず難しいほうが遅れる。または、すべてが中途半端の結果になります。これは自明のことですね。

あるとき事業部長が社長に相談に行きました。他部門のAさんを新商品開発のプロジェクトリーダーに指名したいとの相談です。すると、社長は即座にダメとの返事でした。いま、別にやっているプロジェクトがあるからという理由でした。それに続いて「そのプロジェクトならBさんがいいね」と即座に別の人を指名することになったそうです。社長はそのような候補者リストが頭の中につねにあったようで、それでこの種の相談はいつでも短い時間で決着したということです。

これは、筆者がソニー勤務のOBから聞いた岩間社長(当時)のエピソードです。筆者はこれを聞いたとき素晴らしいと思いましたが、このことだけであれば必ずしも難しいことでは無いとも思いました。本コラムの読者には、同様なことを実践されている経営者の方々は少なくないでしょう。しかし、社長の仕事の範囲は広くて深い。多くの関心事をどのように位置づけるか、そういう課題になります。そこで、次にこのような情報(社内人材の知識)について考えます。本連載第78回番外編で述べたことにも関係します。

【3】豊富な知識が良い行いにつながる
レンタカー会社で働く人は、誰であれ「燃費」ということについて無知であってはなりません。この話題をもとに連載第78回では筆者の体験から、信頼される企業のために職場教育のより一層の充実をはかることの重要性を述べました。

社長の仕事の範囲は広くて深い、と繰り返し述べています。これをすべてひとりでカバーするのは誰がやっても難しいことです。ところで、人にはそれぞれ得意なことがあります。企業組織には様ざまな人たちが存在しますので、得意な何かをもつ有用な人はつねに存在するはずです。ただ、周囲あるいは本人さえ気づいていないことはよくあります。これは言わば埋蔵された資源ですね、表面には現われないので発掘してみないとその鉱脈や価値はわからない。

ここに会社のために社長にしかできないこと、社内に埋蔵する資源の発掘があります。埋蔵資源を発掘し磨き上げると、誰が何を得意とするか様ざまな人材が見つけられます。まずは、これが社長としての良い行いそのものです。そして、人材を企業の成長に結びつける。これこそが社長自らが得意技にしてもらいたい経営プロセスである、筆者はこんなふうに考えています。