プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第72回

次元上昇はジクソーパズルの感覚で
 ~設計リードタイム短縮は設計改革への道(その5)

前回は、テレワークが時代の潮流になった背景を踏まえメンバーのパワーアップをはかるにはどうするかについて述べました。まず基本としてスキルアップが必要になります。基本となるOJTの他に固有技術については社内講師による集合研修に必要な工夫を説明しました。さらに、次のようなシナリオを紹介しました。メンバーのスキルアップ→組織のパワーアップ→組織(企業)の次元上昇、こういったシナリオを描きながら好機を活かすことを述べました。
今回は、組織の次元上昇のきっかけになるイベントの考え方について前回とは異なる種類のものを説明します。前回に続き、経営者の方々の果たす役割が大きい課題です。

【1】次元上昇につながるイベント
前回、次元上昇について次のように説明しました。

「我われの組織は、従来とはもう次元が違うんだよね」という実感を、全ての役員と従業員が持てるようになること

これは組織の状態です。とくに決まった定義はありませんから、そのつもりで気にしていないと全く感じないでしょう。取引先や顧客などから「最近、何か雰囲気が変ったね」というような反響はあるでしょう。組織の内部にいるとその雰囲気は案外わからないものかもしれません。
前回は次元上昇につながるイベントとして、業界初の画期的な製法の開発などと割合に大規模なものを例としてとり上げました。次元上昇につながるイベントとしては、このような大きなものに限らず、日常的に存在する小さなものもあります。大きなイベントに対して小さなイベントです。

【2】日常的な好ましい変化のしるしもイベントになる
大規模なイベントではなくても、次のようなことは良い方向への変化のしるしと言えるでしょう。これもイベントとして機能します。社外の立場から筆者の見聞したことを列挙します。見聞の範囲は開発や設計部門です。

開発や設計部門において:
・後工程からの問合せ、催促や苦情が少なくなる       
・個人単位ではなくチームで協働する業務カイゼンに取り組む 
・取引先との商談の機会に若手技術者が関係する知識を学ぶ  
・社内の他部門からの依頼案件をいやがらずにたんたんとさばく
・行き詰ったときはひとりで抱え込まずに先輩や上司に相談する
・日報に仕掛り業務の状況がわかりやすく記述される     
・部門の会議だけに限らず全社的に会議時間が短くなる    


固有技術のスキルアップに加えて、このような日常的な変化のしるし(小さなイベント)が増えてくると組織の次元上昇のための準備がそろうことになります。
スキルアップはどの企業においても当然の前提であるとすれば、このようなイベントは化学反応における触媒のようなものと言えます。組織メンバーの誰でも触媒になりえるのが大きな特長です。日本的経営の代表であるおみこし経営の長所でもあります。小さなイベントの積み重ねもまた、大きな変化である次元上昇につながる。まさにわが国らしい全員参加の組織ということになります。

【3】ジグソーパズルのようなもの
次元上昇とは「我われの組織は、従来とはもう次元が違うんだよね」ということでした。

これから起こるさまざまな時代の変化に柔軟に対応することや、時代の変化を先取りするチャレンジにも恐れず対応できる。こういうことが期待できます。いつの時代においても変化への対応がうまくいくかどうか、そのための正解なるものはありません。次元上昇とは、正解が無いことを組織の常識として共有できることでもあります。
そのためにどういうことをやっていくか。これまで述べてきた大きなイベント、日常的な小さなイベント、これらがジグソーパズルのピースとなります。大小のピースを集めて大きな絵を目指す。もちろん、大きな絵の構図は経営者が腕を振るうことになります。どのような構図であれ、次元上昇した組織だけが全てのピースを集めて大きな絵に到達することでしょう。
そのような組織であれば、設計リードタイム短縮は難しくはあってもいくつかある課題のひとつとして扱える。組織の次元上昇をそのように考えています。