プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第71回

メンバーのパワーアップをはかる
 ~設計リードタイム短縮は設計改革への道(その4)

前回は、設計リードタイム短縮は設計改革への道(その3)として設計現場のマネジメントフリー、つまり、自主・自律的な設計現場のためにどうしていくかを述べました。時代の背景としてテレワークは世界の潮流になったこと、従って必然的にマネージャーが不在でも業務が廻る仕組みが必要になったことなどを解説しました。さらには、わが国ではいわゆる「おみこし経営」が主流ですが、変革期には経営トップに限らず、改革を推進するリーダーが求められることを余談も交えながら述べました。
今回は、そのような環境のもとでメンバーのパワーアップをはかるにはどうするかを述べることにします。そのためにまずは、スキルアップについてです。

【1】スキルアップのためにはそれなりに仕組みが必要
いぜんに本連載第65回「テレワークで少数精鋭を目指す(その3)」で紹介しましたが、テレワークで「あらたなスキル」が開発されることがあります。テレワークの環境が本人の得意技を目覚めさせたので苦手意識をもっていた他の分野についても苦にならなくなった結果でした。つまり、あらたなスキルと言っても個別スキルのことではなく総合的な業務スキルが向上した、という意味でした。この事例は本人固有の事情に基づいています。テレワークをきっかけにして、すべての従業員に対してこのような結果を期待することはできません。やはり、経営陣からそれなりの仕組みや仕掛けをつくってスキルアップを促進していく必要があるでしょう。テレワークの対象者を前提にすると、企業の全社員に必要な共通スキルと設計業務に求められる固有スキルに分類できます。いずれもOJT(実際の業務を通じての訓練)の他に、社内での集合研修の機会があります。

【2】スキルアップのための社内研修の企画と実践
とくに設計の固有スキルについては、講師陣は社内の人材で対応する必要があります。技術担当役員が中心になって管理職や若手技術者などと講師チームを構成し研修企画をつくり上げます。講師は受講者に伝える役割を担当しますが、この役割ほど自らの理解を促進するものは他にありません。60分間の研修のために講師はその数倍の時間をかけて準備することになり、社内講師が最も成長することになります。次のような手順を一例として示します。設計の固有スキルであれ全社員に共通のスキルであれ、手順そのものは共通です。

社内研修の企画と実践
①担当役員が中心になって講師チームをつくる
②チームで研修企画をつくりあげる
③計画に従って講師が研修を実践する
④受講者からの意見や感想を企画にフィードバックする


集合研修は実施の頻度も丁寧に決める必要がありますし、受講者のレベルによってクラス分けが必要になるかもしれません。
もちろん、業務スキル向上の基本はOJTです。しかし、職場で指導する上司や先輩によって、指導のバラツキがあることが弱点です。その弱点をカバーするために社内で統一的な研修は欠かせません。
講師選定について定年退職者の中から的確な人材を選択することができます。企業組織にはさまざまな形で見えない資源が存在しています。退職者も有用な資源です。上手に発掘・選択して活用することが、企業の成長や活力につながります。

【3】研修の実践をパワーアップに、そして次元上昇につなげる
OJTや社内研修がうまくいって、スキルアップすればそれは良いことに違いありません。間違いなく組織のパワーアップ(活力を生み出すこと)につながるでしょう。しかし、それだけではもったいないように思います。この結果をきっかけにしてさらに組織のレベルアップにつなげたいものです。このことを筆者は組織の「次元上昇」と呼ぶことにしました。これは「我われの組織(企業)は、従来とはもう次元が違うんだよね」という実感を全ての役員と従業員が持てるようになることです。製造業の場合(本稿での製造業とはB to Bの取引を想定)、設計部門がこのようなカギを握っています。いくつか例示します。

次元上昇につながるイベントの例
・業界初の画期的な製法の開発に成功する
・設計や検査などの自動化設備の導入に成功する
・申請中の特許や実用新案が承認される
・競争見積もりに勝ち大型案件を受注できる
・業界団体において品質管理などで表彰される


メンバーのスキルアップとこれらのイベントが同時期に重なると、いわゆる共鳴のような効果が期待できます。そして、設計部門のメンバーを起点にして組織全体に次元上昇の実感が広がる、筆者はそのような状況を想定しています。もちろん、企業経営者がそのような構想をもちながら好機を逃さず仕掛けていくことが必要になります。