前回は、経営のプロトコルを開発すると題して設計プロセスに5Sを適用することを述べました。今後のビジネスの潮流としてDX化やテレワークなどがあります。設計プロセスにおいてテレワークの取り組みが遅れると企業競争力をゆるがすことにつながりかねません。設計プロセスに必要な経営のプロトコルについて5Sを適用してつくることを説明しました。そして5Sのうち「目標」に相当するもの(製造現場では「清潔な職場」)は、マネジメントフリーであるとひとつの結論を述べました。今回は設計のマネジメントフリーをどうつくりあげるか、その課題を解説します。
【1】マネジメントフリーはなぜ必要か
ここでマネジメントフリーとは、マネジメントを極小に→最小に→無しにという段階を前提にしています。いきなりフリー(無し)の状態になるわけではありません。では、マネジメントフリーはなぜ必要なのでしょうか。そもそも人はあれこれ指図されて動くのはいやだというような論議を、ここではしないことにします。テレワークでは、従来のようなマネジメントのやり方ではうまくいきません。チームメンバーがリアルな職場にいないからです。そして、テレワークは時代の潮流です。潮流に逆らうと後になって取り返しのつかないことも起ります。
テレワークと従来のやり方の利害得失を比較して有利なやり方をとる、これは感心しません。
新しいやり方と慣れ親しんだやり方との選択を利害得失で決めることには無理があります。えいやっとカンと経験で決断することが賢いやり方です。
まとめると、マネジメントフリーはなぜ必要か→テレワークに必要だから→テレワークはなぜ必要か→時代の潮流だから、このように筆者は考えています。
【2】進ちょく会議のあり方 その課題
設計はつねにいくつかの受注案件(プロジェクト)をかかえています。計画通りに進行すれば何の問題もありませんが、つねに大小のトラブルや遅れが発生します。それらに限られたメンバーでどううまく対処していくか、トラブルや遅れの早期発見のためにも進ちょく会議は重要な役割があります。しかし、進ちょく会議は現場からは嫌がられる存在になりがちです。
①進ちょく会議を不要にするスケジュールマネジメント
これは本連載第11回で説明しました。従来のスケジュール立案を変更するやり方です。よく考えられた合理的なやり方です。何らかのスケジュール管理ソフトや自作のエクセルなどで作業の進ちょくを管理している場合は、相性がよく切り替えの手間もさほどかかりません。進ちょく会議を不要にしますから、お薦めのやり方のひとつです。
②進ちょく会議のやり方の改善
筆者の体験ですが、進ちょく会議の当日はよく頭痛がしました。会議が責任追及の場だったからです。テレワークでもリアル職場でも、会議に責任追及の傾向があるのは変わりません。これは会議を運営するリーダーの考え方(方針)しだいで改善することができます。
それは進ちょく会議を「責任追及」ではなく「問題解決」の場にすることです。会議の役割をガラリと変えることが改善につながります。
③進ちょくの見える化
そもそも進ちょく会議は「今どうなっている?」という進ちょく確認から始まることが多く見受けられます。つねに、すべての案件(プロジェクト)の進ちょくの見える化ができていれば進ちょく会議そのものが短時間ですむか、あるいは廃止することができます。
【3】チームの能力設定と仕事量について
チームが自律的に仕事を進めるには能力と仕事量についての考え方を明確にしておく必要があります。もちろん、仕事量は受注状況によって変動します。受注の内容によって選択や優先順位をつけるなどの考え方(方針)を明らかにしておく、ということになります。
①能力の設定
1日正味8時間として設計業務に関わる時間は50%と設定する。
(筆者の体験から。設計部門で大規模調査をやった結果は42~43%でした)
企業組織は設計に限らずさまざまな業務があり、本来業務に関わる時間としてこのレベルは妥当なものと考えています。
②設計標準時間の設定
設計プロセスごとに標準時間を設定します。もちろん、メンバーによってスキルレベルが異なりますから、マネジャーがそれを調整します。これにより、案件(プロジェクト)ごとの所要時間が算出できます。すべての案件を合計すると総仕事量が算出できます。
③能力不足時の対応
上記の①と②により、能力不足の場合にどう対応するか設計部門としての選択肢は次のようなことが考えられます。
・設計プロセスの一部を外注化する
・工数的に不利な受注は断る
・合理化設備、省力設備など機械化や自動化を進める
上記について、経営陣はわかりやすい方針を設計現場に伝えておき共有しておく必要があります。
設計のマネジメントフリーについて、その必要性、進ちょく会議、能力と仕事量について述べました。必要性の根拠を「テレワークは時代の潮流」に置きました。しかし、進ちょく会議や能力と仕事量について述べたことは、その根拠がなくても設計部門にとって欠かせないことがわかります。これらにかねてから対応しておくことが時代の潮流を理解することにつながります。