連載の前回は、観光公害(オーバーツーリズム)の続きを述べました。観光客の集中による現地や周辺地域の迷惑や明らかな被害についての現状やその対策などを述べました。例えば富士山は自然物であり誰かの所有物ではありませんが、地方自治体という管理者は存在します。対策に手をこまねいているのではなく、入山の予約制などで観光客の集中や過蜜登山によるリスクなどを防止・緩和に有効ではないかと一案として述べました。同時に、入山料の高額化を合わせて行うことも追記しました。また、富士山の写真撮影スポットとして人気のコンビニで富士山の遠景撮影ができなくする妙案も紹介しました。いずれにしても、観光公害の対応策としては料金の高額化や物理的な制約条件などをまずやってみることが欠かせない状況であることを述べました。今回もこの続きです。
前回、本欄で有料化や高額化は当たり前の常識になると述べました。富士山は有料化に踏み切ったとのニュースがありました。
富士登山のオーバーツーリズム対策については本年4月に「富士山における適正利用推進協議会」が「富士登山オーバーツーリズム対策パッケージ」を発表、本年の富士登山シーズン7月1日から9月10日まで吉田ルートで16時から3時までの時間規制、1日あたり4,000人の人数規制、1人あたり2,000円の通行料の徴収などが発表されている。
つまり、有料化や人数規制が導入されたわけです。やや遅きに失した感はありますが観光資源の保全や登山者の安全対策などについて対応できるようになりました。以前から登山道沿いで任意協力の募金はあったようです。今回は登山者のみでなく、広く内外の観光客からも徴収することになります。
アルピニスト野口健氏は有料化について自身のXで「大きな第一歩」としつつも、金額について「日本人1万円、外国人3万円。僕の感覚です」と言及されているそうです(2024.5.14)。
つまり、国際的にはまだまだ廉価であるということですね。
何でもカネで解決するのかという意見もあるが
これまでは無料だったものが、あるときから有料になる。別に名所や旧跡でなくても人が多数集まるところではさまざまにカネがかかります。例えば清掃・掃除です。今までは近所や地域の方々の無償の奉仕活動で支えてきたとしても観光公害のレベルになると、もう無理ということになります。有料化で財源が確保できれば「何でもカネで解決する」ことができそうです。そもそも、無料のものあるいは低価格のものに購入者はその価値を認めないあるいは認めにくい傾向があります。無料ではなく有料になったとき初めて価値が認めてもらえることは、我われの住む自由主義社会では当たり前のことになっています。例えば、観光都市であるバルセロナの例を紹介します。
グエル公園 いぜんは無料だった
前回、バルセロナのサグラダファミリア大聖堂は「入場料をとる工事現場」と呼ばれていたと書きました。現在も新たな尖塔を建設中ですが、観光客が入場する聖堂の本体部分は見事に完成しています。この他に同市には多くの観光名所がありますが、そのひとつにグエル公園があります。いぜんは全く入場無料でしたが、現在はしっかり有料になりました。有料化で観光客にとって何が変わったかと感じられるものはほとんどありません。そもそもトイレなどは、この公園に限りませんがどこに行っても少ないのは相変わらずです。公園は地形的に周囲よりも高いところにあるので景観が素晴らしいのもいぜんと同じです。とはいえ、筆者はここについてはおカネを払ってまで観光する値打ちは感じません(あくまで筆者の感覚です)。しかし、ここは入場の制限や予約制は無いようでした。パックツアーの主催者にとっては便利な存在としての位置づけなのでしょう。有料化でこの公園の営業的価値がランクアップしたように感じました。周辺の交通規制が強化されたので地域住民の日常生活にとって多少の良いことはあったのかもしれませんが、さらに多くの観光客が来場することで迷惑は加速するのではないでしょうか。もっとも、レストランやバル(喫茶店)などの関係者はうれしい状況であることに違いないでしょう。
首都近郊にある鎌倉市の悩み
筆者は横浜市在住ですが、鎌倉市は近くにある名所のひとつですので、早朝や平日などにクルマで出かけていました。しかし、ここも近年は内外から押し寄せる観光客による悩みは尽きないようです。また、都心から距離的にさほど遠くないせいかTV各局がしばしば取材に行きます。そしてさまざまなお店を番組で紹介しています。興味ある番組が放映されるたびに現地に出かける人が増えるのだろうなと思います。近くの江ノ島と結ぶ江ノ島電鉄(江ノ電)も大ヒットしたマンガのおかげで地域住民の通勤通学にも支障がある事態になっているようです。これも観光公害のひとつに分類されるのでしょう。マンガは世界に誇るわが国の文化ですが、観光公害を引き起こすほどのすさまじいパワーをもつことに驚きます。もちろん、わが国のマンガは欧米において絶大な人気があることがよく話題になります。これらを考えると、公害対策を考えるよりも人気に基づくパワーをどう活かすかがより建設的な道を開くように思われます。
公害を一転して公益に転換する
国際的に絶大な人気をもつ富士山は登山有料化、総枠規制や登山登録制などのインフラ整備によってさらに新たな発展を遂げるでしょう。混雑に伴う登山者のリスク低減や景観の保全などだけではなく、観光資源としての魅力度に磨きをかける大きなきっかけになることが期待できます。
わが国の観光産業の目的は単に観光客を増加させるというだけではないと思います。外国人観光客が増えてかつリピーターが増える、こういうサイクルで日本びいきや日本のファンが増える。そうなると、結果として日本に住みたい、日本で働きたいという外国人が増えることにつながります。いま、わが国は人口減少時代の真っ只中にあります。この状況で日本ファンを増やすことは、わが国観光産業が勢いを増すだけにとどまらず日本という国全体を進展させる道そのものと考えられます。