プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第174回

プロジェクトチームの休憩室(22)

連載の前回は、観光公害(オーバーツーリズム)について述べました。世界の観光地ではどこでもこれにどう対処していくか悩ましい問題のひとつになっています。そもそもわが国は、外国人観光客からは清潔で奇麗なことが他の国にない大きな特長として評価されています。とはいえ、その評判を維持するためになかなか難しい課題をかかえています。その事例として今後の対応策のひとつとして富士山の入山料の高額化を取り上げました。わが国はこれからもずっと人口減少の時代が続きます。どの地域であれ、内外の観光客が増えるのはありがたいことは言うまでもありません。従って、観光公害の対応に際しては内外の観光客を拒否する姿勢であってはならない、これが基本になると思われます。わが国はこれまでに大気汚染という環境公害を官民が一致協力してりっぱに克服してきました。観光公害についてもこれが死語になる道を追求・探求していく必要があります。


集中による弊害
観光客が集中することによる弊害は、まず観光客の満足度に大きな影響があるでしょう。事前の期待値には集中に伴う不具合はほとんど予想されていないでしょうから事後には「失望した」もありえます。そこまでではなくても「評判ほどではなかった。今回だけでもういい」といったことになりかねません。観光産業に限りませんがすべてのビジネスはひいきしてくれる人々、リピーターの存在がカギになります。これはわが国で成功している大規模テーマパークにおいてもビジネスの大原則としてよく知られています。集中による弊害をいかに解消していくかは不特定多数を対象にしたビジネスではさまざまな工夫が必要になります。富士山については対象が自然天然のものなので、管理者(地方自治体)に対する苦情はテーマパークなどの人工物よりも少ないのではないかと思われます。だからといって、管理者が集中による弊害などに有効な対応をしなくてよい、手をこまねいてよいことにはなりません。

既存の予約システムの活用
例えば、自由な訪問や入場を制限する対応があります。事前の予約が必須とすれば無秩序な集中を避けることができます。東海道新幹線は本年のGW期間中、自由席を無くしてすべて指定席にしました。新幹線の駅やホームでの過密を解消する狙いでした。集中が予想される時期においては、既存の予約システムをフル活用するやり方が導入されたわけです。これは新幹線という公共サービスであっても私企業ゆえに独自の判断で実行できたのでしょう。そもそも有料のサービスでは、繁忙期と閑散期で価格が異なるなど、消費者に不利・不便なことも受け入れられています。つまり、今回は価格による管理ができるのでそれを実践したことになります。このやり方を活用することが普遍的な対策のひとつになることは間違いありません。しかしながら平時が有料でない場合、いきなり有料化を導入することは難しいことになるでしょう。このことは、今後のわが国おいて観光分野だけではなく、避けて通れない課題と考えられます。

有料化の延長上にある高額化
わが国への外国人観光客は圧倒的に東京都に集中しているそうです。であれば、この集中を周辺都市に分散させるために、現行の宿泊税(1泊¥100~)を東京都だけに限って大幅に高額化すること(筆者の感覚的一案としては1泊¥10,000~)が有効な対策として成立すると考えられます。東京都としてはマイナスになったとしても周辺の自治体を含めた全体ではマイナスを補うことができそうですから、集中を分散させるための良案と言ってよいでしょう。

また、わが国には出国税の制度があります(2019年1月施行)。帰国する訪日外国人に限らず、我われ日本人の出国にも適用されます。海外旅行などで出国するとき航空券やツアー代金などと一緒に徴収されているそうです(ひとり¥1,000)。この目的は・・観光先進国に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源を確保する・・と説明されています。なお、同じ趣旨の税制は米国、英国、EU諸国や東南アジア諸国でも施行されているそうです。わが国で知らないうちに徴収されている税金のひとつですね。これも出国税という呼び方ではなく、新たに「入国税」と呼び方を変えたほうがわかりやすいでしょう。そして改称と同時に現在よりも高額化することが海外からの観光客の集中や過密対策として現実的な選択肢となるように思われます。

物理的な制約条件は必須
ここまでは入国するときやイベントに参加するための有料化や高額化について述べてきました。この項ではそのような入場料を徴収することができないイベントについて考えてみます。例えば、花火大会や鎌倉市などのように都市全体への観光客集中をどう管理していくかです。こう言うと「何でも管理するのは反対」との反論があるでしょう。しかし、この反論に筆者は管理がずさんだった過去の花火大会での惨事を思い出します。

明石花火大会歩道橋事故(2001年7月)とは、兵庫県明石市で発生した群衆事故。死亡者11名、負傷者183名の惨事となった。主な原因としては会場と最寄り駅との間にはこの歩道橋以外の連絡通路がなかったにもかかわらず、主催者や県警などによる群衆の誘導計画がずさんだったこと(以上、ウイキペディア記事に基づく筆者の見解)。

こうしてみると、管理不能な群衆(観光客)集中はつねに大きなリスクをはらんでいることに気づきます。たかが花火大会で人命に関わる事態が起こることは文明国としては大失態であり大きな恥と考えます。もっと、きちんとやってくださいと言わざるを得ません。

店舗前の道路の横断禁止を訴えるコンビニ店長
富士山の写真撮影スポットとして人気のコンビニA社(いずれも河口湖近辺)の店舗では撮影マナーが守れずにきわめて危険として「道路横断禁止」の看板を設置したとのニュースを聞きました。コンビニ店長のきわめてまっとうな現場感覚が目立つニュースでした。富士山が撮影できないように(遠景が見えないように)するための措置も紹介されていました。ただ、この措置は行き過ぎとの意見があるようでした。しかし、筆者はやむをえないと考えます。現在のこの状況で遠景が危険無しに撮影できる妙案があるかどうかは別として当面の対応として受け入れるべきでしょう。

道路を横断する本人が危険を感じること無く行動して事故が起こったとき、筆者はこれを自己責任あるいは身から出たサビと割り切る気にはなれません。横断者のリスク感覚が、現在のところは幼児なみのレベルであったとしても、今後の経験で将来の成長が期待できるからです。

(次回に続きます)