プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第173回

プロジェクトチームの休憩室(21)

連載の前回は、わが国の交通インフラについてまず事業者のレベルが高いことを取り上げました。同時にその利用者のレベルも高いことを述べました。例えば、繰り返して同じ事例である本年1月の羽田空港での航空機どうしの衝突事故の例です。乗客・乗員併せて400名近く搭乗していた旅客機のほうは全員が無事に生還しました。これは客室乗務員の冷静な判断、どの出口扉から脱出すべきかがまずありました。そして、すべての乗客が乗務員の指示どおりに行動したことがありました。海外メディアの論評のひとつに次のように書かれていました。こういうときは乗客がパニックになって手荷物をかかえて我先にと勝手に動くので混乱は避けられない、全員が無事脱出できたことは奇跡的と伝えていました。このように事業者と利用者、そのいずれもレベルが高いことを書きました。今回もこの続きです。まずは本欄の前回記事についての読者の感想をお伝えします。外国人観光客のわが国の美しさや奇麗さについての称賛はあるがその根本にある我われの行動が伝統として永続するのだろうかという疑問を含めた感想です。


ゴミが増えると日本人もゴミを捨てる
読者の感想は次のようなことでした。

外国人観光客は日本を美しい国だという人は多いと聞いています。おそらく、日本人が掃除などもして美しさを保っていることは周知のはずです。
しかしながら、富士山や京都、海などはその外国人観光客が捨てたゴミで溢れてきております。日本人は綺麗好きだから捨てても誰かが綺麗にしてくれるだろうと思って物を捨てる外国人が多いのでしょうか。ゴミが増えると日本人もゴミを捨てます。


つまり、日本人が世界に誇るべき「奇麗好き」という好ましい伝統が消えつつあるのではないかという感想でした。確かにこのような傾向は目につくようになりました。

観光公害(オーバーツーリズム)
これは世界の観光名所で共通して起こっている現象といってよいでしょう。スペインのバルセロナでもこのような観光公害の状況を聞いています。バルセロナ港に大型クルーズ船が着くと1000人ほどの乗客が半日の時間帯に集中して同市の観光名所に出かけることになります。

これに困った地元住民たちの要望で、観光バスの乗り入れる地域が規制されるようになったと聞きました。同市には有名な観光名所のサグラダファミリアがあります。筆者が初めてここを見学したのはバルセロナオリンピック開催3年前の1989年の冬でした。当時は「入場料をとる工事現場」と言われており、いつでも入場できました。その後も建築はまだ続いていますが、工事現場と称された内部は華麗な大聖堂(バジリカ)に一変しました。そして、入場については事前のネット予約が必要になりました。いつ行っても入場できるのではなく、時間帯を指定しての予約制になりました。このような制約条件が追加されても、世界的な観光名所においては地域住民にとって、その観光公害を緩和することはできないようです。

渋谷ハロウインの喧騒
ハロウインがどのような宗教由来かは知りませんが、それはどうであれかまいません。お祭り騒ぎは大いにけっこうなことです。そもそもわが国には八百万もの神さまが存在しますから、お祭りも多種多様です。ハロウインなどに目くじらを立てる必要はありません。例えば、バレンタインデーはわが国にしっかり定着しました。チョコレート屋さんの作戦は大成功しています。このような文化のスマートな導入は、他の業界でもお手本にできるでしょう。さて、ハロウインで様々に扮装して楽しむ人たちは、まさにわが国の文化の多様性や宗教に対する自由で寛容な姿勢によるものでしょう。まさにわが国が世界に誇るべき「自由」のひとつと言ってよいですね。ただ、筆者がハロウインの現在の喧騒状況に批判的な理由は野放図な飲酒を伴うことです。これは当然のことながらハロウイン本来の属性ではないはずです。何にでも便乗してうっぷんをぶちまける悪い飲酒癖のある人たちのせいです。これを解消することができれば、ハロウインはわが国の文化の多様性にまたひとつ好ましい変化を起こすことが期待できます。

公共の場で飲酒可能なわが国
そもそも、わが国ではお花見のように公共の場での飲酒が際限なく許容されています。東海道線で通勤していたときのことです。帰りの混雑している電車内でお酒を飲みながら新聞を読んでいる人がいました。しかもおつまみにスルメを食べていました。座席に座っているのではなく、帰りのラッシュ時に立ったままの状態でした。このような芸当は誰にでもできることではありませんが、周囲の乗客のひとりである筆者にはその匂いがひどくて大迷惑でした。

わが国では、たいていの公共の場での飲酒がとがめられることはありません。これは文明国と称される国々において、わが日本の際立った特異点と言えます。夕方、駅の売店でお酒を買ってその場で一気に飲み干す人をたまに見かけます。これを見たら海外の観光客は驚くのではないでしょうか。あるいは逆に「日本はどこで酒を飲んでよい素晴らしい国」と大歓迎して驚く方々もあるでしょう。とにかく、わが国では年齢条件さえ満たせば飲酒は違法行為になることはありません。クルマの運転では酒気帯びや飲酒は厳しく罰せられますが、これは当たり前のことです。これらの厳罰に比べれば、我われ日本人の飲酒に伴う誤った行動については何か大目に見る傾向が目立つように感じます。クルマの運転と同様なより厳しい対応が必要でしょう。

有料化や高額化を進める
名所に観光客が殺到する観光公害(オーバーツーリズム)は、地域住民の生活に悪影響を与えるばかりでなく、名所などの貴重な文化資産を損耗させることにつながります。例えば富士山です。多数の観光客が登山すると、まず登山者の安全が確保しにくくなります。霊峰の維持にも相応の費用が必要になります。ここでの救急車は通常のものでは使えないようで、キャタピラー付きの雪上車のようなものが稼働しているそうです。これらの経費を賄うために、そして基本は観光公害の影響を緩和するために富士山の管理者である自治体は登山の有料化を実施すべきでしょう。筆者の感覚として「入場料」として外国人はひとり100ドル、日本人はひとり8,000円といったところでしょうか。もちろん、ネット予約で入山者数や入山の日程や時間帯を指定することもかんたんにできるはずです。人気のある商品は消費者がその価格を決める、資本主義の競争がある社会ではごく当然なやり方で観光公害の緩和に役立てることができます。