プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第164回

プロジェクトチームの休憩室(12)

連載の前回では、サービスはすべて無償というよくある誤解とサービス精神について筆者の体験をもとに説明しました。とくに筆者が印象に残っている顧客企業社長のサービス精神の一例を紹介しました。その企業では、オフィスにかかってきた電話はすぐにとることや、社内で訪問されたお客さまを見かけたら必ず挨拶することなどの基本的なビジネス作法の徹底がありました。それらを踏まえたうえで、幹部社員向け研修のときに筆者が聞いたサービス精神についての社長の逆転の発想がありました。取引先から自社の社員が接待ゴルフのお誘いがあったときの対応について、社長は「誘われたら断る。しかし、逆にこちらから誘い返すべき」という指示でした。これは相手の提案をただ断るのではなくまずは同じ土俵に上る。しかし、借りをつくるのではなく逆に貸しをつくる、といったことでした。今回は、まずこの続きになります。


次の機会を無くさない
接待ゴルフがビジネス本業の付帯領域のどのあたりに位置づけられるかは、ここではとくにこだわりません。これは、広くお互いのコミュニケーション機会のひとつと言えます。従って、せっかくの提案(接待)を断るようなことは貴重なコミュニケーション機会を減らすことになります。それでも、断ったからといって将来に禍根を残すといった大げさなことにはならないでしょう。とはいえ、目前のコミュニケーション機会は先送りせず何とか活かしたいものです。要は相手に借りをつくらなければよいのです。従って、いったんは断っても次にこちらから逆に相手をお誘いするなら「借り」の面では全く問題ありません。「誘われたら逆に誘い返す」は、相手に対して弱い立場になることも無く、また次の機会を無くすこともありません。

交渉の場で余裕をもつ
誘われたら逆に誘い返す、これは交渉の場で相手に対して余裕をもつことにもつながります。相手に対して何らの精神的な「借り」は無いのですから、対等な立場で交渉に臨むことができます。ここでの「余裕」とは、もちろん精神的な余裕のことです。ビジネスに限りませんが、折衝や交渉の場では、ここで取り上げた精神的な余裕が交渉の成否を左右することがけっこうあります。また、これらの場に限らずプレゼンテーション(プレゼン)の場でもこのような精神的な余裕が必要になります。プレゼンが苦手という方は折衝や交渉にも苦手意識を持つ方が多いように見受けられます。その対応として、事前の準備(段取り)があります。つまり、折衝や交渉そしてプレゼンなどにも段取りが欠かせません。次に、プレゼンにおける一般的な段取りを説明します。これは折衝や交渉にも共通して活用できると思われます。

プレゼンシナリオを準備する
プレゼンを計画するなら、まずそのシナリオを準備する必要があります。シナリオとは映画などの脚本や台本のことですが、プレゼンではそこまできっちりやるにはなかなか時間がとれません。従って、シナリオとしてはシンプルなものが望まれます。筆者は次のような三つを意識することにしています。はじめに・細かく・締めくくり、この三つです。例えば、経営トップにあなたがある製造ラインの設備増強計画のプレゼンをおこなうとします。プレゼンの時間が限られている場合、とくにこの三つをきちんと訴求することが欠かせません。このプレゼンで、三つは次のようになるでしょう。

・はじめに  そもそもなぜこのような計画が必要になったのか、その理由   
・細かく   計画の内容、設備の概要、工期や資金、計画で目指す姿、損益など
・締めくくり  計画の実行がいかに合理的でかつ必要なことであるかの確認  


これらはともすると良いことばかり、バラ色の計画になりがちです。計画のもつ潜在的なリスクなどもあるはずです。事前に二つ、三つほど考えておくとよいでしょう。計画の内容によっては、このリスクそのものが最大の関心事になることもあります。それが予想できるときは、リスクについては独立させることにします。つまり、全体の三つのうちの一つとして説明するとよいでしょう。

相手の関心事は何か
プレゼンの場合はとくに注意が必要なことです。相手の関心事は何かを把握せずに進めるとうまくいきません。必ずと言ってよいほど、そのようなプレゼンは失敗します。例えば、経営トップ(依頼主)が製造ラインの設備増強計画を意図している場合、とりあえず急場を一時的にやりくりできればよいという意向もあります。逆に、この機会に将来を見据えた次世代の生産システムに耐えうるものにしたいとの構想があるかもしれません。このような両極端のケースは無いにしても依頼主の意向はしっかり把握しておくことが肝要です。とは言っても、依頼主にも当然のことながら割り切れないことや迷いもあります。依頼主とはさまざまな機会を活用して、その意図を確実に把握・理解しておくことが欠かせません。

最終成果物を明確にする
設備計画に限りませんが、依頼主の意図を確実に把握するやり方のひとつは、最終成果物を明確にすることがあります。成果物は「物」がついていますが、有形のものばかりではありません。無形のもの、かたちの無いものも成果物です。例えば、状況や状態がそうですし、職場の文化なども無形のものです。何かトラブルが起こったら当事者だけでなく、すぐに応援に駆けつけることなどはまさに組織の文化の一例と言ってよいでしょう。そこで、そういう職場の文化を目指すプロジェクトを立ち上げるとすれば、目指すもの、目標としての成果物は「職場の好ましい文化」とすることができます。このように、成果物という言葉を上手に活用することがビジネス全般でもっと普及すべきと筆者は考えています。的確な言葉づかいを職場に普及させることは、企業組織の活動全般にわたっての生産性向上につながります。