連載の前回では、自治体などの公共組織であれ、企業組織であれ、そして個人であれ意地悪な姿勢や行動はそれらの評価を下げるだけでなく、良いことはひとつも無いことを述べました。筆者の出身地では過去には、上下関係のある場で例えば先輩の発言に対して、反論などはすべて「ギを言うな」ということで許されない悪習があったことを紹介しました。さすがに今ではもう存在しないのですが、反論を許さない悪習はかたちを変えて現在でも存在していることも紹介しました。とくに、組織やチームのトップがこのような悪習の雰囲気を持つ人物でしかも意地悪な場合だと組織の雰囲気は最悪になりパフォーマンスにも大きな影響があります。今回はこの続きです。そういう人物たちの悪影響をどうやって解消するための一例となります。その前にまずは部下にとって元気の出る上司のことを述べることにします。
部下を叱責するとき
筆者がお付き合いしている中小企業の経営トップの方々にはさまざまなタイプがありますが、部下をどなりちらすような方はきわめて少ないようです。部下に不手際や失策があった場合、叱責はあって当然と思います。しかし、どなりちらすのはいかにもまずいことのように思います。筆者はそのような場に立ち会ったことはありませんが、企業の従業員の方からその状況を聞くことはあります。当事者ではない方としても、叱責は当然だがそのやり方がまずいことだと思って話されることがあります。きっと特別な思いがあって話されたのだと思います。つまり、叱責されるべき相応の理由があるにしても、叱責の場や内容が適切かどうかについてかなりの違和感があったので社外の人物である筆者に話されたのでしょう。現代において、どなりちらすのは基本的には論外と思われます。
部下が気持ちよく仕事ができるように
仕事で部下が上司の評価(叱責を含みます)を率直に受け入れるのはどういう場合かを考えてみます。前提として、その仕事についての知識・経験や情報の有無があるでしょう。
①逸脱や間違い:あるべき姿からずれている、間違っていることがわかる
②悪影響や修復:そのような場合に他に及ぼす様ざまな影響がわかる
③予防的な対策:事前にやっておくべきことがわかる
つまり、仕事について事前の理解や準備があるのかどうかということになります。上司がこのような前提について思いを巡らせているか、これが仕事がうまく進むかどうかを決めることになります。もちろん、特別な場合もあります。事前の理解や準備が全く無いにも関わらず、部下にその仕事を指示することもあります。本稿の今回ではこれは対象外とします。
上司による段取りが部下の成長を助ける
叱責なり褒め言葉なりは仕事の結果に対してのものです。もちろん、仕事の途中でとんでもない方向に仕事を進めていることがわかった場合には結果が出ないうちに軌道修正する必要があります。ここでは結果が出たとして述べていきます。ここで「段取り」と書きましたが、これは仕事の目的と成果物(ゴール)をつなぐ一連の「仕事のつながり」を指しています。「仕事はうまく進んでいるか」という質問はここを指しています。上司はこのような質問をしますが、仕事がうまく進むかどうかは実は「仕事のつながり」にあります。事前に、つまり仕事を部下に指示したときにここをきちんとした理解を上司と部下で共有することが、とても重要です。
上で述べたような一連の「仕事のつながり」を一般的には「段取り」と呼んでいます。これを上司と部下で共有してから、具体的な個々の作業に着手することになります。段取りをどの程度、事前に細かくやるかは上司と部下のその仕事についての知識・経験によって決めることになります。お互いに知識・経験が少ないようなら、事前にかなり丁寧にやっておくほうがよいでしょう。
仕事ができる人とは
本連載の前回(第160回)で、とても仕事ができる部長を紹介しました。提案書の題名として的確なものを部下である筆者に想起させたり、プロジェクトの全体像を描いてみせたりできる上司でした。本稿で仕事ができる人の特長を言えば、まさにプロジェクトの全体像を自分なりに描けることです。これは何もプロジェクトに限ったことではありません。何ごとについても全体像を描くことはきわめて重要です。全体像がイメージできれば、大きな間違いは起こりません。つまり、的外れなゴールを目指すことは無いのです。ほとんどの仕事では、ゴール(最終的な成果物)を丁寧・緻密に仕上げることよりも、やや荒削りであったとしてもきちんと納期を守るほうがありがたいことが多いのです。つまり、全体を見渡して、手持ちの工数、納期、そして成果物の仕上がりの程度などをバランス良くコントロールできることが重視されます。これらはプロジェクトマネジメントの基本となりますが、仕事ができる人たちに共通して要請されるスキルとなっています。
組織メンバーのやる気を高めるリーダー
仕事ができる人に対して、さらに追加してもらいたいのは「メンバーのやる気を高めること」です。仕事ができるだけでなく、これもできれば「リーダー」としての資格十分です。やる気を高めることができれば、結果的に誰でも「仕事ができること」につながります。リーダーは自分だけでなく、メンバー全員をレベルアップできることになります。このようにして、組織やチームなど全体の雰囲気を好ましい方向に持っていくこともできるようになるでしょう。