脱力・カイゼントーク 第15回

私は長年、心身統一合氣道という流派の合気道を習っています。先日、稽古の中で興味深い体験をしました。短刀を持った相手が私に向かって飛び掛かってくるのを受ける技を稽古していた時のことです。通常は素手での稽古ですが、相手が武器を持っていることで私は緊張してしまい、上手に技をかけることができませんでした。

その時、師範が視線を手から相手の全体に切り替えるようにとアドバイスをくれました。普段は相手の身体全体を見るように心掛けていますが、今回は短刀が気になって、相手の手だけを見ていました。視線を替えた途端、私の反応が速くなり、技をかけることができるようになりました。全体を見ていると、手より先に動き出す部分があり、それが見えるからです。遠くから見ていると、違いは視線だけなので、ナゼ私が突然に上達したのかは分からないと思いますが、私の中では「目から鱗」の大きな気付きあったのです。師範のアドバイスがなかったら、この問題に気付かず上達できなかったと思います。この経験から考えたのですが、この現象はモノづくりの現場にも共通することがあると思います。

以前、食品製造A社の外観検査工程で、コンベア上を流れてくる商品の不良を見逃さない人と、見逃しがちな人の視線の違いをアイトラッカーで調査したことがあります。すると、前者は不良が起きやすい個所全体に焦点を合わせ、その周辺を注意深く見ていました。一方、後者は過去に不良が起きたところだけを見ていました。撮影後、お二人と一緒に画像見て視線の移動を分析し意見を交換した結果、効果的な視線の移動方法が見つかりました。結果的に、不良を見逃しがちであった方の発見のレベルが大幅に向上したことはもちろん、すでに優れたスキルを持っていた方もより楽に仕事をこなせるようになりました。作業指導書の中には視線の使い方についての記載はなかったのですが、早速追加して誰でもが楽に良い検査ができるようになりました。

作業カイゼンの時に、目で見える部分は議論の対象になりますが、視線のような微細な動きは見落とされがちです。しかし、これらの微細な動きは非常に重要であり、疲労を軽減し、品質と生産性を向上させるのに役立ちます。アイトラッカーを使わなくても、上手な作業者とそうでない作業者の違いの分析をする時に、どこに、視線を当てているかのような微細な違いを議論して良い方法を見つけ出し、その内容を作業標準に記載することができれば、すべての人がそれを実行できるようになります。

視線に限らず、作業の中には目に見えにくい、いろいろな情報があります。振動、音、熱などの察知の仕方などの微妙な感覚もこれらと同様でしょう。これらの隠れた要素を発見し、より良い方法を見つけ出していくことで、より効率的な仕事を遂行できるようにカイゼンの範囲を広げていきましょう。