プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第157回

プロジェクトチームの休憩室(5)

連載の前回は、筆者の旅行体験などから海外も含めた公共バスサービスの感想を述べました。まず、わが国の公共バスサービスはその定時性、つまり定時運行を守ろうという姿勢には特筆すべきものがあることを述べました。そしてこれまで述べたのは基本的に通常時の状況についてでした。今回は最近の台風7号による影響など異常事態での公共サービスについて感じたことを述べます。帰省ラッシュやお祭など通常にはない大混雑する状況においての公共サービスについて本連載でこれまで述べなかった鉄道交通などを追加して述べることにします。


大混雑する富士登山 その事故防止策は
まず、台風とはちょっと関係の無い話題です。テレビ放映されたので知りました。富士山が外国人観光客にも人気があり登山者が増え過ぎているとのことです。富士山に限らず高い山の登山には全く相応しくない軽装やサンダル履きも見かけるとのことでした。また、登山中に気分が悪くなった人を下山させるために特別な車両があるそうです。高い山での救助には市街地用の救急車では通用しないのでしょう。キャタピラーで走行する特殊な車両を使っているそうです。従って、その運賃はかなり高額になるとのこと、これはやむをえないでしょう。それにしても、そういう救助サービスがあることそのものにわが国のサービスの範囲の広さを感じます。

このような大混雑する状況で登山の安全を確保したい管理者(静岡県、山梨県)としては、登山者を無制限に受け入れることは全く望ましくないことでしょう。まずは登山者の安全確保のためのハード面の対策があると思われますが、本稿ではソフト面の対策の一案を述べることにします。一般的な混雑対策として、まずは入場(登山)を制限することが考えられます。そのための常識的な一案は登山の有料化です。観光施設の入場有料化はどこでも当たり前のことですから、これで登山者が過密にならないようにコントロールする一助になります。事前のネット予約などは、海外の有名な観光名所では普通に実施されているやり方です。わが国の関係自治体は大きな事故が起こらないうちに効果的な対策を実行することが欠かせないと考えます。

大混雑が当たり前の状況で事故は起こる
GWの海外ニュースとして放映されていましたが、中国の連休でも観光地に多くの人が密集し身動きできないほどになったためケンカ騒ぎになったそうです。この程度なら当たり前によくあることです。よくあることとは言え、大混雑はときに大事故を引き起こします。2022年10月に起こった韓国ソウルの繁華街イテウォンではハロウイーン前に訪れた多くの若者が圧死するという悲惨な事故がありました。大混雑や大群衆はつねに大きな危険をはらんでいます。

わが国でも2001年7月に明石花火大会で歩道橋事故があり、多くの死傷者が発生し大きな事故になりました。花火大会などでは、見物人が密集することが避けられません。密集対策としてユニークな一例があります。今年開催されたびわ湖大花火大会では有料観覧エリアには高さ4mの目隠しフェンスが設置されました。これは当地で物議をかもしました。地元住民からの「自宅から花火が見えなくなる」という不満です。これはもっともなことですが、高いフェンス設置の主な目的は大混雑による事故防止にありました。次の機会、来年には地元住民の不満解消と事故防止とを両立させる対策が期待されます。

台風7号と新幹線遅れ・・台風(通過)後になぜ新幹線が大混乱
新幹線は雨に弱いと言われますが、それは盛り土による軌道を走行する東海道新幹線のことです。盛り土軌道は、開業した1960年代の土木技術を反映しています。その後に建設された東北や北陸などの新幹線は軌道がコンクリートの高架橋に敷設されているので「雨に弱い」点は克服されているようです。さて「台風通過後になぜ新幹線大混乱」とは、あるメディア記事の見出しでした(2023.08.20 読売新聞オンライン 添付図の出典も同じ)。

新幹線のダイヤの乱れ(8月15~17日)


折り返し運転による迅速な交通サービスの復旧
筆者は京浜地区に住んでおり、日常よく利用する鉄道は私鉄三社が相互に乗り入れています。その路線は、神奈川県~東京都~埼玉県を運行しています。何か運行上のトラブルがあった場合、その地点と隣接するいくつかの駅間では不通になります。しかし、神奈川県から埼玉県までの全線が長時間にわたって不通になることはまずありません。トラブルそのものの復旧には時間がかかったとしても、利用者の不便さの解消は最優先で取り組み迅速な対応がなされているようです。これは実に素晴らしいことです。

そのために、必要な区間では折り返し運転によって電車運行が継続されます。つまり、トラブル発生の区間は不通ですが、そこさえ避ければ折り返し運転の電車が利用できるのです。列車が上下線で線路を切り替えられる仕組み(渡り線)をもつ駅があれば、折り返し運行は継続できるようになっています。新幹線なら、博多~東京間でそのような渡り線をもつ駅として、岡山・新大阪・名古屋などの主要な駅はもちろんのことその他にも多数あるでしょう。

かねてからJRに対して筆者がもつ違和感
今回のように博多(山陽本線)~東京(東海道本線)の全線にわたって大きな影響が出ることは、何かしら運営上の大きな問題があるように思われます。筆者は鉄道運行の専門的な知識はありませんが、台風通過後も(8/16~17)大混乱とは何かおかしい。つまり、JRは今回のような場合の対応で、例えば折り返し運転ができなかったということです。新幹線固有の事情(他線に比べて運行間隔がきわめて短いなど)はあるでしょう。しかし、何らの工夫もせずそれらの対応をずっと放置したままでは、結果的に利用者無視となります。言い換えれば顧客重視の姿勢が全く見えません。JRに欠けているのはシンプルにここではないか、かねてからのJRについての筆者の違和感です。

(次回に続きます)