からくりカイゼン 第11回

からくりカイゼンの10個の原理原則:動きの方向を変える機構

 からくりカイゼンの4つ目の原理原則は、動きの方向を変える機構です。これは3つあります。

 ➊特定の周期運動を可能にするカムがあります。カムとは、動く側と動かせられる側があり、動く側に導かれて直接動かされている側が、特定の往復運動や周期運動をする機構です。前回の摩擦車と同じことですが、動かされる側の形状が摩擦車は円筒でした。カムの形状は、ハート型、楕円型、一部突起のあるものなど色々とあります。

 カムについては、ガソリンエンジンのカムシャフトとタペットの組合せが代表的なものです。カムシャフトに組込まれているおむすび状のカム(一ヶ所突起している)が回転して、相手側のタペットに回転の運動を規則的な上下の直線運動に変換して、吸気と排気を規則正しく繰り返します。自動車で1分間に数千回転も繰り返します。この規則正しい繰り返しが精度の大切に要素になります。

 からくりカイゼンでサーボモーターを使って、高速でなおかつ高精度μ台の作業に挑戦していた案件がありました。どうしても精度が出なく、カムの動きを併用することで見事に目的を達成ししかも世界最高速だそうです。入社3年目の若い人でしたが、特許も申請することができました。新しい技術と古くからのからくりの原理の融合した良い事例です。

 からくり人形の代表的なものとして、弓曳童子(ゆみひきどうじ)があります。子どもが弓矢を1本とり弓の絃に当てて、それを後ろに引いて弓矢を放てば遠くの的に当てると言うからくりです。これを4回繰り返し、最後はわざと外し首を傾ける演技までこなします。これには、数枚のカムと棒状の腕木やリンク機構、さらには糸と重りで動きを連動させていきます。

 イタリアのベーロナ地方は、ロメオとジュリエットの物語だけでなく、そこには谷山間の工場があり、真鍮部品の鋳造と切削加工の指導をしていました。谷間の急な流れを利用し水車を昔から利用して産業が発達していたようです。

 その工場は、非常に古い切削機があり、なんと段取り替え時間が数時間もかかっているので何とかしたいとの相談がありました。開けてみてビックリ、なんと旧式のカム式の構造でした。数えきれないほどのカムの集合体でした。後輩の力を借りて何とか30分まで短縮しました。カム式は、逆に丈夫で長持ちの精度のある機構だと思いました。

 近年のからくりカイゼンでは、このカムやリンク機構さらに滑車などを組み合わせることが本当に増えてきました。これは皆さんが、1つひとつの原理を理解され、さらにコンパクト化しよう、少ない動きで多くの働きをさせようとする意欲の表れだと思います。頼もしさを感じます。

(次回に続きます)