プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第156回

プロジェクトチームの休憩室(4)

新連載「プロジェクトチームの休憩室」の前回では、大都市で運行される乗合バスでの筆者の体験を述べました。好ましくない事例もありましたが、筆者の家族が体験した、とても素晴らしいサービス事例を紹介しました。それは乗車したときに下車すべきバス停を尋ねた乗客に対して、まことに的確な観察と臨機応変の対応があったことを説明しました。これはわが国の高度な公共バスサービス文化の一端として誇るべき事例でした。今回は筆者の旅行体験などから海外も含めた公共バスサービスの感想を述べることにします。


一日一便しかない列車は定刻どおり駅に着いた
まずは海外の鉄道交通について本で読んだことです。南米A国で外国人旅行者が鉄道の駅で一日に一便しかない列車を利用することになりました。旅行者は、この国では列車が定刻どおりには運行しないことは予備知識がありました。「何時間待たされることやら・・」と思いながら駅のホームに着きました。ところが待つことわずかでまもなく列車が到着したのです。旅行者はすっかり喜んで駅員に伝えました。「君たちもやればできるじゃないか」、これに対して同じ列車を待っていた現地の人がこの外国人旅行者に言いました。「この列車は昨日到着する予定だったが、いま着いたんだ」、読んだ本では笑い話として紹介されていました。

日本のバス停には必ず時刻表がある
筆者のかかりつけ医師はB国出身です。自国で漢方医の資格をとり、その後、日本の大学で漢方医だけでなく医師免許を取得、日本の医師と漢方医の資格を併せもつ方です。とても気さくな先生ですので、待ち合わせの患者が少ないときは二人で雑談が弾みます。ときどき、母国在住のご両親と電話で会話されるようでその話題として次のようなことを聞きました。先生が「日本のバス停には時刻表がある」と伝えたらご両親はびっくりされたそうです。わが国ではバス停に時刻表があることは当たり前です。大都市はもちろんのこと、運行頻度が低い地方都市であっても、バス停には必ず時刻表があります。それはバス事業の基本として定時運行を守る姿勢を示しており、また利用者に向けての情報サービスの一環として位置づけられています。このような面でも手を抜かないのがわが国の際立った長所ですね。バス停には必ず時刻表がある、先生のご両親にはとても信じられないことだったでしょう。

発車時間の表示が行き届いている
鉄道駅での発車時間の案内表示については文明国ならどこの国でも常識です。常識とはいえ、わが国の場合はその情報提供の丁寧さや細やかさは抜群のように感じます。出発や到着の時刻表示が駅舎内だけでなく、ホームでもわかりやすく表示されます。年末年始や夏季休暇など臨時ダイヤも丁寧に告知されます。極めつけは駅構内に温泉のある駅での事例です。テレビ放映されていて知りましたが、温泉の浴室内に発車の時刻表示があるのです。これなら温泉入浴中でも乗り遅れる心配は無さそうですね。

バスの場合、その運行状況を利用者に情報提供するとなると鉄道よりかなり難しいようです。鉄道と異なりバスは他の道路交通全般の影響が避けられません。バス停において次のバスがいつ到着するか、その情報はバス停で待つ人たちにとっては大いに有益な情報ですが、その提供はまだ難しいようです。筆者の住む横浜市の市営バスはこのような取り組みをしていますが、まだ本格的な運営には至っていないようです。

海外出張で見かけた交通渋滞とバス停での長い行列
筆者は同僚と二人でC国の首都に5回ほど出張しました。その際、印象に残ったのは夕方の幹線道路の交通渋滞です。片側4~5車線あるにもかかわらず渋滞するのです。現地人通訳のD氏によると、その理由のひとつは地下鉄やバスの公共交通の輸送力が不足しているとのこと。また公共交通を敬遠してマイカー通勤を選ぶことも要因とのことでした。そんな話をしながら、D氏のマイカー車窓からバス停を眺めたら、バスを待つ人たちの長い行列がありました。

D氏から次のような解説がありました。通勤が公共のバスからマイカーになると人生がランクアップした感覚になる・・。大げさに言えば、その人の社会的な階級がひとつ上がるといったことのようでした。確かにこの国ではそうかもしれないと思いました。わが国では一般市民の通勤手段によって社会的な階級差が生じることなどあり得ません。海外出張のこのような体験で、日本は社会に階級の無い素晴らしい国だとつくづく感じることになりました。