新連載「プロジェクトチームの休憩室」の前回では、路線を定めて定期的に運行される乗合バス、そしてツアーなどで利用する観光バスなどについての筆者の体験を述べました。そして、観光バス運転士のサービス精神あふれる姿勢から事業者の安全運行にかける誠実な取り組みについて紹介しました。今回は、乗合バスに関する話題の続きです。乗合バスという公共サービスでの運転士に関する話題から、わが国のサービス文化の現状の一端をお伝えします。
東京都での公営バスでの筆者の体験です。私鉄、JRや地下鉄の乗換駅であるA駅前にはかなりの規模のバスターミナルがあります。ここでバスに乗車したときのことです。幼稚園児を連れたご婦人が車内放送を聞いて下車ボタンを押しました。園児と一緒の二人連れでは、かなり混みあっているバスの車内移動には時間がかかります。バスが停留所で停車してもなかなか下車ドアにたどりつけません。降りたいのはこの二人連れだけでした。運転士の車内放送:降りる方いませんか!二人連れのご婦人:降ります、これはかなり小さな声だったので運転士には届かなかったのかもしれません。この二人連れが降りないうちに下車ドアは閉まりバスは発車してしまいました。次のバス停では他にも降りる乗客がいたのでバスは停車しましたが、この二人連れはそこからひとつ前のバス停に歩いて戻ることになりました。
下車ボタンが押されたからには、運転士としては下車する全ての乗客の下車をきちんと確認することが欠かせないはずですが、この確認がありませんでした(筆者の住む大都市のバスサービスでは、このような運転士の確認モレは全く見聞きしたことがありません)。このような好ましくない事例もわずかながらあるにしても、多くのバスサービスは基本的に素晴らしいレベルにあると思われます。例えば次のような二つの事例を紹介します。
筆者の住む団地には最寄り駅までのバス運行が充実しています。利用するバス路線では通学や通勤時間帯は、やはり混み合います。そこでの運転士の臨機応変の対応は公営・私営に限らず共通しているようです。例えば、混み合うときの乗車の際には「下車ドアからも乗車をお願いします」とのアナウンスがあります。それに続けて「料金支払いは下車の際にお願いします」との放送があります。このとき無賃乗車をしようと思えばできないことは無いわけですが、それは問題にせずスムーズな乗車を重視する姿勢はまさにわが国の事業者と利用者による素晴らしい文化を示しています。
次は筆者の家族の体験を紹介します。妻が風邪気味で医師に診てもらいたいときにかかりつけ医があいにく休診日でした。少し遠くにある初めての医院に行くときのことです。バスに乗車してC医院はどのバス停で降りたらよいかを運転士に尋ねました。するとそれはDバス停と教えてくれたあと、運転席のすぐ近くに座るように指示されたそうです。バス停さえわかれば下車ドアの近くに座ったほうが便利なはずですが、運転士の指示どおりにしました。まもなくDバス停に近づきましたが、そこでバスを待つ人は無く、また下車する乗客も無かったそうです。バスはそこには停車せずに通過して少し先のバス停ではないところで停車したそうです。そして運転士は「C医院はあそこです」と示してくれました。Dバス停を通過して少し先で停車したのは風邪気味の乗客が道に迷わず医師のもとに行けるようにとの配慮だったようです。バス停とは異なる場所で乗客を下車させることは運転規則には反することかもしれません。しかし、乗客の特別な事情があれば規則を超えて的確な行動をとる。これは決して当たり前のことではないと思います。運転士、そして運転士たちをサポートする事業者の際立ったサービス精神を感じました。
これら二つの事例から感じることは、わが国の高度な公共バスサービスの文化です。筆者は他の国の事情を知っているわけではありませんが、世界に誇ってよいことと思っています。
(次回に続く)