プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第154回

プロジェクトチームの休憩室(2)

前回の新連載「プロジェクトチームの休憩室」では、筆者の住む地域での乗り合いバスの運転士に関する話題をとり上げました。ワンマン運転は、プロの運転士であってもなかなかに注意や気配りが必要な仕事と感じるところを述べました。また、それを支える職場の雰囲気が伝わってくる事例を紹介しました。今回もバスの運行についての筆者の体験をお伝えします。

筆者の観光バスでの体験です。バスツアーであの有名な姫路城に行ったときのことです。少し腰痛があったので天守閣まで登ることはあきらめて、1時間ほど駐車場で待つことにしました。駐車場の周囲にはお土産店やカフェなどが多数ありましたから、さほど退屈せずにすむと思いました。運転士はもちろん城内見学などはせずにフロントガラスを拭いたり、点検などに余念がありませんでした。筆者はこのようなバスの運転を含め、乗り物全般には興味があるほうなので、この運転士の方にかねて知りたいと思っていたことを聞こうと話しかけました。

まずはスペアタイヤの格納場所です。ごく普通のセダンタイプの乗用車であれば、リアのトランクに格納されます(もっとも、近年ではスペアタイヤ無しが標準になっています。タイヤや道路の状況が良くなったからでしょうか)。大型観光バスは後部にエンジンがありますから、リアではなく、フロントバンパーの後部に水平に格納されていました。これは初めて知りました。そこで走行中にタイヤがパンクした経験がありますかと聞いてみました。10数年の経験で1回だけあるとのことでした。ひとりで大型バスのタイヤ交換はたいへんだろうなと思ったのですが、1回だけの経験はたまたま営業所から出発して観光客を迎えに行く途中だったとのこと。営業所から代替のバスがまもなく到着して運転士としては交換作業は必要なかったとのことでした。

このような会話がはずんだところで「エンジンルームも見ますか?」とのお誘いがありました。もちろん、筆者としては大歓迎です!二つ返事でお願いしました。バス後部のエンジンルームには、欧州A社製の直列6気筒(排気量20L)のエンジンが搭載されていました。説明によると、エンジンは最も消耗する部分なので会社にはエンジンの予備機があるのだそうです。例えばバスが10台あると、予備のエンジン単体が1基(余分に)ある。これなら、バス10台がフル稼働してもエンジンの整備に十分な時間をかけることができるとのことでした。このような説明が淀みなく出てきました。運転士はもちろんのこと、運営企業においても安全運行にかける誠実な姿勢を感じました。乗客としては全く知らないところで、必要不可欠なことがきちんと実行されているのです。

エンジンはどのメーカーの評判が良いかも聞いてみました。断言はできないが個人としての感想は欧州A社、国産ならB社が多く搭載されているようだとのことでした。わが国は世界トップレベルの自動車大国ですが、このような業務用でかつエンジンという特定の分野では欧州A社は高い評価を得ていることを初めて知りました。

お城の天守閣には登れませんでしたが、わが国のプロフェッショナルの安全にかける誠実な姿勢を知ることができました。天守閣からの眺望も素晴らしかったのだろうとは思いましたが、それに優るものを体験できました。