7月のご挨拶

7月になりました。暑い日が始まりましたね。

先日機械加工の現場で、若い社員2人が汗だくで作業をしていました。何をやっているのだろう?と近付いてみてみると、平ヤスリを使って金属を削っていました。横にいた監督者の方に聞くと、2人は今年の新入社員で現場実習中とのことでした。その会社で実際にヤスリを使う仕事はめったにないので、この実習にはどういう意味があるのですかと聞いてみました。

彼の答えは、「もちろん、今の時代、社内でヤスリを使う仕事はめったにないのですが、実はいざという時に必ず役に立つ大切な技術なのです。それに加えて刃物を扱うことは常に危険を伴うので、このような場を通じてそれらを事前に理解してもらう意味もあります。ヤスリというモノを見たことすらない若い人が、その持ち方や目の付け所、あるいは力の入れ方などを学びながら、少しずつできるようになってくることから得られる学びはとても大きいのです」ということでした。機械加工のメカニズムは学校で習って知っているかもしれませんが、自分の身体を使って初めて分かる刃と金属の関係や力の入れ具合による出来栄えの違いなど、普通は学べるものではありません。何が起きるか分からない海外出張先で、このヤスリを使った経験が生きるということもあるかもしれません。

若い2人には過去にこのような経験はなかったということでしたが、これまでの知識中心の覚える勉強から、自分の身体を使った体験中心の感じる実習を通じて、まさに自分で考えるということを学んでいるのだと思いました。

一方で、最近話題のChatGPTのようなAIアプリや、動画教材としても使われるYouTubeのようなものもあります。もしパソコンでそれらを使って「ヤスリのかけ方」を調べれば即座にわかりやすい文章や動画が表示されます。しかしこれらはあくまで一つの正解であり知識です。それによって使い方は理解することができるかもしれませんが、それだけで作業ができるとは限りません。やはり練習と経験が必要です。

この会社が社員の皆さんに求めていることは、知識よりはむしろ経験と創造力だということです。その創造力を生み出す源泉とは何かを考えると、知識ではなく、自分の身体と五感を使った経験だと思います。これからのモノづくりを進めるにあたって、AIや動画の活用はもちろん大切ですが、創造力をさらに生かして新たなモノを生み出すためには、身体と五感を使ったアナログのトレーニングが必要だと思いました。

一方高い技能を持った人でもアプリなどの最新技術の使い方に慣れ親しんでいない方もいらっしゃいます。そこでこの際にそれらが得意な人に教わってChatGPT やYouTubeで「ヤスリのかけ方」を検索すれば、そこに出てくる情報はほとんどが既に知っていることばかりかもしれませんが、一部にはなるほどと思う新たな情報もあるでしょう。それを試してみて、今までに経験のないことができるようになれば、それはまた新しい技術の習得になります。

このように、昔からある職人のアナログ技術とAIなどの最新のデジタル技術、体験と知識が交差することで、新たな学びが生まれ、新たな価値が創出されるのです。それはまさに、新しい高いレベルの技術を生み出すための新たな方法論とも言えます。そしてそれは企業にとって、これまでにない新しい技術の習得方法、新たな教育の形ともなるでしょう。

皆さんが新しい技術を学びお互いの強みを教え合って、一人ひとりが更に進歩向上することで、企業の新しい技術・技能を創造する道が開けると思います。


日本カイゼンプロジェクト
会長 柿内幸夫