プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第152回

プロジェクトでわかる仕事の正しい進め方(その2)

前回は人気テレビ番組「はじめてのおつかい」をとり上げました。そもそも幼い子どもがおつかいに出かけられるという社会的な環境、安全な環境は恐らくわが国だけのものではないでしょうか。そのような環境が無ければこのような文化はありえないことです。筆者が利用する私鉄の電車ではひとりで通学する小学生を見かけます。下校の時間帯は友だちと一緒のこともありますが、基本はひとりでの通学になります。わが国では小学生がひとりで通学してもとくに違和感はありません。
外国の通学事情はどうなっているのでしょうか。筆者は何回かスペインに旅行しました。首都マドリッドで宿泊したかなり治安の良い地区でも、小学生の通学には母親がつき添っている光景をよく目にしました。これを見るたびにわが国の安全な環境を思わずにはいられませんでした。幼い子どものおつかいは単なるしつけの問題ではなく、それを支える社会の環境が必須であることを痛感しました。前回、おつかいはプロジェクトの三要素を網羅しており、それらは仕事の正しい進め方の基本になること、そして三要素を踏まえなかった筆者の失敗談などを述べました。今回はその続きになります。

【1】新入社員をどう教育するか
筆者が自動車会社に入社したとき、配属された部署は鋳物工場に付属する技術課でした。そして鋳造製品の金型設計グループに配属されました。当時はCADのような便利な設備はありません。製図版を使って鉛筆で作図していました。筆者は機械製図の単位はとっていました。上司としては、図面を読んだり作図そのものは一応できそうなので、鋳造金型に固有の事情さえ教えれば戦力の一端にはなるはず、そういう教育方針のようでした。そしていま筆者が思い出すことは新人教育のやり方がきわめて実践的で効果的なものであることでした。ここで実践的とは教わる側として実務にすぐ役立つ、効果的とは教える側の工数も少なくてすむ、そういう教育プログラムでした。

【2】新入社員に任された仕事とは
金型は製作が完了しても、すぐには使い物にならないようでした。金型は図面どおりに完成しても、それを使ってできあがる鋳造製品の寸法精度や良品率(不良率)をクリアするまでにかなりの頻度で金型修整が欠かせないという事情がありました。一例として、鋳造時の収縮率をどう設定するかという課題があります。全体としては10%と設定しても、部位によってはそれでは寸法精度がクリアできないときは、金型の該当部分を修整する必要があります。そして、金型図面の一部を修整し金型に修整を施工します。このような一連のプロセスを繰り返していました。従って金型そのものはたびたびの修整が加えられますが、その修整情報は別途の帳票を発行することになっていました。つまり、当初の図面にそれらの修整を反映するのは、修整が一段落したときに一括して反映するというルーティンになっていました。金型設計グループに配属された筆者の仕事は、まさにこの業務、多くの修整を一括して図面に反映することでした。これで金型の現在の状態をそっくり反映した図面ができることになるのでした。

【3】業務そのものが教育プログラムの一環となる
筆者が任されたこの仕事は、作業としてみれば難しくはありませんでしたが、まさに技術ノウハウのかたまりだったと感じています。なぜその修整が必要となったのか、大事なポイントでは先輩から説明してもらえました。さまざまに修整したが狙いどおりの効果が出せずにもとに戻したという修整もありました。ここでプロジェクトの三要素に基づいて、この教育プログラムの特長を説明すると次のようになるでしょう。

プロジェクトの三要素
・成果物(目的)      新入社員を早期に戦力化する      
・納期(かかる時間)    1年間(金型設計グループへの配属期間)
・予算(社内資源)     既存の社員が教育するための工数はわずか


【4】教育にかける時間と戦力化のバランス
新入社員の教育にはおカネと時間がかかります。いきなり戦力化することは期待できません。自動車会社の組立工場では新人が一斉に配属される時期は稼動効率が低下することは生産目標に織り込み済みでした。筆者が体験した新入社員の教育について、プロジェクトの三要素で振り返ってみると、バランスが良くとれていたと感じます。筆者は金型設計グループには1年間の所属でしたが、これで鋳造工場の全体像を把握する大きな助けになったことは間違いありません。その次の仕事は同じ部署の中で、金型設計とは全く別の仕事をやることになりました。ここでの新人の教育プロセスも技術やノウハウの伝承の面からじつに印象に残るものでした。

(次回に続く)